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公共組織支援メールニュース 2013年04月

「自分にとって」の経営の目的を地域の未来づくりにつなげる(長野県駒ケ根市)

 長野県駒ケ根市、底冷えのする1月末。地元企業の後継社長7名が市内の会議室に集まりました。既に社長に就いている方もいましたが、ほとんどはお父様が元気で社長をされている会社の役員や管理職です。「ジブンガタリ」と称して自分のことを語り合いました。

 お父様との関係、自分の悩みなどぶっちゃけた話がお互いを刺激し合い、「ここだけ」の話が次々に出てきます。「父は自分の提案をことごとくぶった切りにする」「うちは何も言わずにやらせてくれる」「創業の志を知るために、創業者である祖父について、知人を辿って聞いてまわり感動した」「父に育てられた社員に認められ
るにはどうすればいいのか」普段はあまり語られない、生々しい話が次々に出てきました。
 夜の懇親会では話題が一変。駒ヶ根をどうやって元気にしていくか、駒ヶ根に眠っている未開発の資産をどう価値あるものにしていくか、などの話題で盛り上がりました。「よそ者」である私の視点も役に立ったようです。

 この対話の場は、長野県駒ケ根市にある天竜精機株式会社社長の芦部喜一さんが呼びかけて始まりました。同社は社員数約100人、駒ヶ根でのものづくりにこだわり続け、創業から半世紀を超えました。
 芦部さんは大学卒業後トヨタに入社、厳しくも面白い仕事にやりがいを感じていた折、2003年にお父様が急逝、天竜精機を継承せざるを得ない状況に。ご本人曰く「会社を引き継ぐ意思が全くなかったので、自分なりの継承理由が必要だった」と。そこで、「自分は何のために経営をするのか?」そんな本質的な問いを何度も考えて、自分の腹に落ちた結論が「社長満足」という言葉でした。
 「社長満足」は、「社長の自己満足」とは違います。お客様満足があって社員満足があり、その先に社長満足がある。社員のために社長が自己犠牲を払うなんて意味がない。「トヨタにいるとき以上の幸せをつかむ」。自分にとっての答えを見つけた芦部さんは、社員とともに「いい会社づくり」に邁進しています。

 そんな芦部さんには、もうひとつの思いがあります。それは駒ヶ根にある会社がもっと元気になって地域を盛り上げたいという願いです。そのためにも、地元企業の将来を担う若き後継者に、後継者だからという理由ではなく、自分と同じように自分にとっての「経営の目的」を見つけてほしい。そうすれば、自分ならではの「いい会社づくり」に取り組めるのではないか。そんな思いを実現するために始めたのが今回の対話の場「経営の目的を考えるオフサイトミーティング」だったのです。

 この対話の場への参加は、地元企業のネットワーク「テクノネット駒ヶ根」の参加企業へ呼びかけました。これは、実は先代である芦部さんのお父さんが立ち上げたものです。
 国内経済が円高や価格破壊などで大きく揺れていた1996年に「テクノネット駒ヶ根」は誕生しました。駒ヶ根の産業界の将来を危ぶみ、官民が協力して連携して知恵や技術を出し合って各社のレベルアップを図ろうと設立されました。運営は民間企業、市役所と商工会議所は事務局に徹するという特徴があります。

 こういった背景でスタートした「経営の目的を考えるオフサイトミーティング」は、1月末に引き続き3月に二回目が開催され、前回よりもさらに踏み込んだ話し合いになりました。「燃料店である我が社は、冬は忙しいが夏は仕事がガタッと減ってしまう」「仕事の繁閑が激しくて、不安定極まりない」など事業への不安が口をつ
いて出てきます。
 印象的だったのは「モチベーションの低い社員をどうするか?」という話題。「それは当人の問題」「いやモチベーションを与えてやらないと」。そのやりとりに投げ込まれたのが「あなた自身はどうですか?」という問いです。「うん?そんなことは考えたことがない」少し間をおいてから「そうか、自分のことを考えてもいいん
だ」という自分に向けたつぶやきがありました。

 社長、特に後継という宿命を背負った人たちは自分のことはさておき「社員のため、会社のため」と考えがちですから、「自分のため」を考えるということは想定外だったのでしょう。一人称で考える「自分にとって」の経営の目的。「経営の目的を考える」というメインテーマに皆が近づいた瞬間でした。

 芦部喜一さんという「個人」の思いが、テクノネット駒ヶ根の事務局および若手を中心とした次世代後継者、そして私たちもその思いに共感し、コトが動いています。4月からの新年度も2カ月に一度継続して開催することになりました。 地元をこよなく愛し、会社の未来を創るテクノネット駒ヶ根の若い後継者たちと「経営の目的」を起点にどんな広がりができるのか。 そんなワクワクする躍動感を駒ヶ根の地で実感しています。

 

プロセスデザイナー 長野恭彦

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