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行政経営デザインメールニュース 2015年01月

震災経験を受け継ぐとは?

 阪神淡路大震災から20年が経ちました。震災の年に生まれた子ど もたちが成人式を迎えています。その中で、“受け継ぐこと”が、 新たなテーマになってきました。“受け継ぐ”とは、どういうこと でしょうか。震災という大きな体験を共有することなく、何を“受 け継ぐ”ことができるのか。とても難しいテーマです。

 わかりやすいものとしては、「あのときこうしておけばよかった」 という教訓を、形にして残す方法があります。“備えあれば憂いな し”と言うように、何の想定や対策もしていなかった被災者たちが 受けたダメージからは、学ぶべきことがたくさんありました。それ は、“ボランティア元年”と言われて支援にかけつけた者たちにとっ ても同様です。助けようとしても助けきれないもどかしさには、被 災者とはまた別の意味で備えるべきことがありました。そして、政 治も、行政も、本来果たすべき機能は何かを根本から問い直される ことになりました。
 東日本大震災のときには、こうした阪神淡路大震災での経験が、 救命救援活動においても、減災、復興の側面でも、ずいぶんと生か されていました。それは、6434名の尊い命を失う経験から私たちが 受け継いだものだと言えます。それでも、新たな“想定外”に成す 術がないことが多々あります。この経験から受け継ぐものだけでは 限界があるのです。

 私たちが、受け継ぐものはそれだけでしょうか。もっとほかに、 形にはならないけれど、大切なことがあるのでは?

 震災によって人生が大きく変わってしまった人たちがいます。そ の生き方に何か受け継ぐべきものがあるように思えます。
 予期しない不幸に遭遇した人たち。それぞれの人には、震災がな ければ潤沢に歩むべき道がありました。それが突然断たれ、立ちす くむことになった。  でも、時は無情にも刻々と過ぎていきます。一日一日どう過ごす かの選択に迫られます。どんなにつらくても、どんなに逃げ出した くても、人生は引き返すことができないものです。たとえ自分の意 図した方向でなかったとしても、大きく舵を切る選択をしなければ いけない局面がやってきます。そのときは仮設定のつもりでいても、 このような選択を繰り返すうちに、やがてその道は自分が決めた人 生のメインロードとなっていきます。
 震災後20年の経緯は、そんな人々の選択の積み重ねでできていま す。 

 “選択”は、本来“意思があって決定する”ものですが、すべて の選択に意思を込めるだけの時間も能力もないときには、“決定し た後に意思を持つ”そんな現実があるものです。行動を通じてよう やく覚悟を持てるようになる。  だから、“寄り添う”人がそばにいることが大切で、新たな道を 歩み出した不安を和らげてくれます。歯をくいしばって這い上がり、 たどたどしく前に進んでいることを“そっと見守って”見届けてく れる人がいることが、心の支えになるのだと思えます。そうしてい るうちに、「この選択でよかったのだ」という意義を少しずつ感じ られるようになってくれば、人生に前向きになることができるよう になってきます。
 20年経った今でも、「どうすればよかったのか」に正解があるわ けではありません。それでも前を向いて歩いていく覚悟ができると、 それはいつしか不屈の意志となって力強い足取りに変わってきます。 そして、一歩ずつ歩む実績が“自信”につながってきます。

 震災を語り継ぐときに大切なことは、こうした選択の積み重ねが 今を築いている、ということなのではないでしょうか。「何があっ たのか」を見聞きすることは簡単ですが、その背景にある「なぜそ うしたのか」を語り、知ることはとても難しい。それでも、どんな 選択も、その結果が変えることのできない事実であればこそ、どん な結果であれ、それを受け止め、そこから半歩、一歩前に歩み出し ていくしかありません。
 震災後の復興の道のりは、仏造って魂を入れるように、ハードを つくった後にどれだけソフトを組み入れられるか、復旧作業が終わっ た後に始まります。“受け継ぐ”ものは、失ったことだけではなく、 そこから新しい道を選択したときに歩み出す“覚悟”を、歩み続け る“意志”に変えて、あの苦しいときをともに乗り越えてきたとい う、懸命な努力によって裏打ちされた“自信”の積み重ね。
 私たちにできることは、その選択に込められた思いをしっかり受 け止めて、明日への一歩につないでいくこと。それが受け継ぐとい うことではないでしょうか。それをこの先も途絶えさせずこれから も前に進めていくことが、私たちの責務なのだと思えます。

 それは、生まれ育ったこの神戸の街で、震災を機に自分の仕事を “企業の変革支援”から“役所の変革支援”へ変えてきた、自分の 人生の選択を再度心に誓うことでもありました。

プロセスデザイナー/行政経営デザイナー 元吉 由紀子

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