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行政経営デザインメールニュース 2015年03月

不正防止に関する組織風土改革の視点

 昨年2月から今年3月まで、某市で発生した不正事務処理に関する 第三者委員会の委員を務めさせていただきました。会合は、職員へ の聞き取りや職場視察を含め、計16回に及んでいます。
 本委員会の対象案件は4件でしたが、本件に関連して議会でも特別 委員会が設置されました。また、委員会開催中にも新たに逮捕者が 出るという不正事案も発生しています。
 このように不正が続けて発生すると、市民はもちろん、市の職員 も大きなショックを受けます。「どうしてこんなことが起こるのか!?」 とやるせない思いや憤りを感じている人が多くいるのではないでしょ うか。
 市では不正事務処理等再発防止委員会を設置して、さまざまな措 置、処分、調査、方針策定、制度変更、職員研修などを行なってい ます。当面の問題処理のためにやれるだけのことをやろうと努力し ている状況がうかがえます。

 それでもなお、「なぜ不正事案が後を絶たないのか?」「どうす れば不正を防ぐことができるのか?」、再発防止に関する疑問は残 ります。これらの問いは、100%自信を持って回答することがとても 困難なものです。おそらくどの自治体でも、大なり小なり課題を抱 えているのではないでしょうか。
 そこで、ここでは本委員会の最終報告に向けて、私が不正事務処 理の再発防止対策について組織風土の側面から重視した二つのポイ ントについてお伝えします。

 一つ目は、「不正」に関する職員の評価の認識合わせについてです。
 「不正」と認められる事案も、それを故意に起こした場合を除き、 職員は「不正」とは気づかずに起こしていることがあるものです。 もしくは「好ましい対応ではないかもしれない」と少しばかり懸念 を抱いていたとしても、「これぐらいならいいだろう」とか「今回 は特別なんだから(例外として認められるはず)」と自分なりの判 断、評価をしてしまっていることがあるかもしれません。
 このように個々の職員が自分本位に「正しい」か「正しくないか」 を判断している限りは、いくら「コンプライアンスを徹底せよ」と 上位者から繰り返し注意を喚起したとしても、「自分は大丈夫。関 係ない」と聞き流されてしまいます。
  こんな時しばしば「職員の意識改革が必要だ」と言われますが、 将来に向けて不正を起こさないようにするためには、意欲や意思を 問う前に、まずは“正・否”の判断基準、評価の認識を合わせるこ とが重要だと考えられます。

 それには、できるだけ具体的な実例について職場内や職場間の複 数の人で、何を「不正」ととらえ、何を「不正でない(正しい)」 ととらえているのか、について話し合う機会を設けることから始め るとよいでしょう。会合の場としては、事故防止など安全管理で行 なっている「ヒアリハットミーティング」をコンプライアンスに適 応して実施していく方法などがあります。その中で判断基準を言語 化していくと、職員は互いの認識に違いがあることを知り、自分を 客観視してとらえ直すことができるようになってきます。みずから 認識のモレや解釈のズレにも気づくことができるでしょう。
 このように、個人の中に内在している判断基準を引き出して認識 合わせをしていくと、組織として共通の判断基準ができてきます。 すると、いざ不正と危ぶまれる事象が発生したときにも、現場で容 易に話し合うことができ、一緒に評価して、そこから「どうすれば 適正に処理できるようになるか」の解決策を考え合うことができる ようになるのです。それが不正を未然防止することにつながってき ます。

 二つ目は、「何をどこまで改善するか」の目標設定についてです。  「再発防止」は、まだ起こっていない事象についての備えのため、 取組みとしては具体策を設定しにくいものです。それゆえに、職員 憲章などを唱和して意識づけをしたり、一般的な知識や情報を得る 研修をしたりする方法しか思い浮かびにくいのかもしれません。
 しかし、職場の長である課長ならば、もう少し具体的な取組みを 見出していくことができるはずです。進め方としては、職場ごとに 再発防止のための課題を設定し、職場全体で改善活動を実施して、 成果を職場ごとに明らかにしていく方法が手がけやすく、具体的な 実績を得やすいものとなります。

 ただし、それには課長が、(1)職場の業務レベルをしっかり把 握しておくこと、(2)組織内に潜んでいるまだ見えていない問題 を発見すること、(3)危険性のある箇所を想定して改善課題を特 定し、(4)いつまでにどのレベルまで引き上げるのか目標設定を して改善活動をリードしていくこと、が大切です。なぜなら、再発 防止に向けた取組みは、今はまだ問題があるわけではないことから 職員がつい活動を先延ばししてしまう可能性があるからです。
 また、取り組んだ結果については、(5)改善できた結果を測定 して、達成度や効果を明らかにすること、(6)庁内に共有してナ レッジを蓄積していくこと、(7)さらに向上していくための新し い課題を探索しておくこと、も忘れてはなりません。
 不正の防止に向けた改善では、やった結果が行政サービスの質の 維持にしかつながらず、住民にとっては“やって当たり前”としか 理解されないため、携わる職員のモチベーションが上がりにくいこ とがあります。そこで、課長には、この改善がしっかり進められる よう、職員を後押しし、盛り立てる環境づくりをしておくことも大 切です。
 課長には、これらリーダーシップとスポンサーシップを発揮する ことで職場のPDCAサイクルを回すマネジメントが期待されてい ます。次年度「組織目標」を設定するときには、ぜひ業務改善の目 標を設定し、その中に不正防止についての目標を盛り込んでみては いかがでしょうか。

 不正によって失った市民の信頼を回復することは一朝一夕にでき ません。取組みには継続する根気と努力が必要です。それでも、あ せらずに焦点を絞って一つずつ具体的に手掛けることで、職員の実 力アップと自信、職員どうしの信頼関係を高めていくことができ、 この基礎を積み重ねていくことが、役場の風土・体質を強化してい くことにつながるものと思われます。

プロセスデザイナー/行政経営デザイナー 元吉 由紀子

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