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公共組織支援メールニュース 2010年09月

"事業仕分け"を役所改革にどう活かせるか(その1)

 8月の下旬、柏市で初めて行なわれた事業仕分けの座長を務めさせていただく機会がありました。今回は、仕分け人体験を通して感じたことをご紹介したいと思います。


 事業仕分けというと、昨年来、政権交代した民主党がマニフェストに掲げた政策の原資を捻出するために、「削減」を目的に行なったものを思い浮かべるでしょう。仕分け人が省庁の事業担当者を尋問口調で追い詰めていく、そして、最後に「廃止・不要」や「民に任せる」といった決定を下す、という場面が繰り返しテレビ画面から流れてきたためか、「仕分け人」=「鋭い口調で役所の無駄を追及し、切り捨てる人」というイメージが定着してしまったようです。
 これ以前に事業仕分けを行なっていた地方自治体もありましたが、国の取り組みを参考に、「構想日本」の指導を受けながら、事業仕分けを行なう自治体が増えているようです。


 柏市では、マニフェストに事業仕分けの実施を掲げて昨年当選した首長が、構想日本に頼らない手づくりの事業仕分けをしたいと、仕分け人を選び、まずは38の事業を対象に、2班で6日間をかけて行ないました。
 首長から伺った柏市の事業仕分けコンセプトは、「市民に対して事業担当者が説明責任を果たす」ということでした。事業の目的、なぜ必要か、どんな成果をあげているのか、課題は何か、ということをきちんと説明できているのか? 本来であれば、すべての事業に関して担当者全員がこのような説明責任を果たすべきだ、という首長の考えがありました。「自分たちの事業が何のためにあって、どう役立っているのか。なぜ必要なのか。改めて考えてもらう機会として捉えたい」という首長の要請と、「一人ひとりの職員は、みんな真面目で一生懸命に業務に取り組んでいる。だからこそ、もっと価値のある仕事のやり方があるのではないか? それに気づいてもらうためには、仕分け人は“愛情を持って”臨んで欲しい」という要望がありました。
 このコンセプトにしたがい、会場のレイアウトも変えました。国で行なったような“コ”や“ロ”の字型ではなく、“ハ”の字型で中央に担当職員が傍聴人(市民)に向かって説明をし、仕分け人が両脇から包むように質問をする、という環境にしたのです。


 実際に座長として仕分け作業に携わると、思っていた以上に大変でした。一つの事業に対して、担当者からの5分間の事業説明と提出資料をもとに、30分間の質疑応答を通して結論を下します。メンバーは事前に、提出された資料を分析し、現地を確かめ、メーリングリストで情報や問題点を共有し、不明な点については事務局を通じて質問を出して同報で回答をもらいます。また、インターネットなど他の資料にもあたって、一つひとつの事業についてできるだけ理解しようと準備しました。さらに、事前にミーティングをもち、全員でそれぞれの事業の問題点や疑問点を洗い出し、当日の質問項目と議論のおおまかな流れについて検討しました。
 限られた時間の中で、担当者の事業に関する問題意識を引き出し、仕分け人の決定に対して傍聴人も含めて納得感をどうやって高めることができるのか。追い詰めるのではなく、担当者の日頃の業務に取り組む姿勢に敬意を払いながらも、もっと本質的な問題を解決したり、仕事のやり方自体を変えなければならないと気づくには、何が必要か。こういったさまざまなことを考慮しながら、仕分け人は責任を持って自分の決定をしていきました。“愛情”をもって担当者の事業に対する理解や思い、問題意識を受けとめ、疑問点を解明し、それでもやはり問題と思われるところをきちんと指摘していく。もっとこんなやり方があるのではないか、と一緒に知恵を出す。仕分け人の決定に関しても、各人がなぜそのような決定に至ったのか、最後に理由を聞くことで、最終の座長判断の納得性を高めることができたのではないかと思います。
 担当した19事業に対し、「廃止」=2、「維持・拡大」=2、そして「要改善(ほとんどが大幅な改善要求)」が15という決定がされました。この結果に対して、一部の市会議員などから「財務的な削減にまったくなっていない。甘い」といった評価があったものの、大方の報道やブログなどは好意的で、共感したという記事が目立ち、最終日終了後には傍聴人から拍手もあったことなど、全体的には事業の説明責任を果たし、事業改善の必要性に対する合意が関係者間で形成されたのではないかと思っています。


 次回は、仕分け事業の担当者とのやりとりを通して感じた役所組織と職員意識の問題点について述べたいと思います。
 

プロセスデザイナー 宮入小夜子

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