Column コラム
公共組織支援メールニュース 2010年10月
"事業仕分け"を役所改革にどう活かせるか(その2)
先月のコラムでは、8月に行なわれた千葉県柏市の事業仕分けに携わった経験を通じて感じたことをご紹介しました。今回は、そこから見えた「役所改革へ活かすヒント」を書いてみたいと思います。
各地で行なわれている最近の事業仕分けは、無駄な事業を削減して財源を捻出することが目的として強調される傾向があります。
しかし、地方自治体では、ほとんどの事業が地域の多様な主体と直接対応する業務特性から、何が無駄か、不要かということを自らは明言しにくい環境であるとも言えます。数年で担当が変わる人事異動があることも、いちいち当該事業の存在理由を問うて利害関係者と交渉するような面倒は避け、継続すること自体が目的となってしまう要因かもしれません。
このような状況の下では「自分の担当する事業は、そもそも何のために必要なのか」と担当者が自発的に考え、気づくことは、なかなか難しいでしょう。事業仕分けで公衆の面前で責められれば、かえって防衛本能や被害者意識を持ってしまうのではないでしょうか。
確かに、「廃止」や「民間へ移管」にすれば、短期的には財務的な削減効果はあがるかもしれません。しかし、根本的な問題が変わらなければ、長期的に有効かどうかは疑問です。
本当の無駄は、事業自体というよりも、実は、役所組織の中で長年当たり前と考えられてきた仕事の仕方(流儀)にあるのだと思います。縦割りのムダ、調整のムダ、一律のムダ、継続のムダ、会議や説明資料のムダ…。構造的問題や法律的制約などもあるでしょうが、「何のために、誰に対して、どんな価値を、最小のインプットで提供する」という経営の視点を持って仕事の仕方をとらえ、変え
ていくことで、ずいぶん役所の無駄はなくなるような気がします。
今回の事業仕分けの作業を通して、このように感じた「役所の流儀」と、それらを変えるヒントがいくつかあげられます。
(1)改革の対象をどう捉えるか
事業の見直しは、どのような改革をするのか、どのような姿を目指すのかを設定して行なう必要があります。予算額の大きい事業を単体で「廃止」にすれば、事業仕分け自体の成果としては評価されるのでしょうが、相互に関連がある事業、複数課で名称は異なるが対象が重複するような事業、複数の事業で成り立つ事業など、「木を見て森を見ず」という状態にならないよう、「森」を意識して事業の選定をしていく必要があるでしょう。
(2)事業に対する思いを伝える
事業担当者は短時間で事業の背景説明、目的に照らし合わせた成果や現状の課題認識まで説明しなければなりません。説明技量だけでなく、事業に対する担当者としての思い、当事者意識や問題意識の高さが説明力をバックアップし、市民の理解を高めます。思い込みはよくありませんが、担当者の思いや悩みが周囲の共感や協力を得ることにつながっていくのです。
(3)部門の縦割りを超える
仕分け対象事業の説明を通して、日頃から部門を越えて相談をしているか、他の関連事業との関係の中で、全体の情報共有が図られるような支援体制ができているかということが見えてきます。「自分の担当ではないので…」というスタンスではなく、関連事業全体の状況や他の事業との関係の中で考え、行動していくことで、縦割り組織を変えていくことができるでしょう。
(4)仕事の目的から成果を定義する
事業の目的は何か、どんな成果を求められているのか、成果を何で測るのか(指標)。「ポスターの掲示箇所数」「チケットの配布枚数」「説明会の開催回数」というのは、役所側の実績を測る指標の一つではありますが、それによってどんな成果効果(アウトカム)を出そうとしているのか、目標の設定とそのプロセスが重要だということも、事業仕分けの経験を通して学ぶことができます。
(5)自分の仕事の生産性=コストと認識する
事業に携わる人件費を配賦すると、事業予算が予想外に大きくなるケースや、外部委託に移管して直雇用の担当部分が減少しているにもかかわらず、予算が変わらないために単位当りコストが上がっているケースなどがあります。これは単なる計算方法の問題ではなく、自分たちの人件費とパフォーマンスの関係による生産性、つまり仕事の仕方の問題ととらえるべきではないでしょうか。
(6)事業の意義と位置づけを全庁的に組み立てる
事業仕分けをきっかけに、全ての事業の意義や成果を見直し、役所全体の住民サービスのあり方と品質について議論を続けていくことが必要です。そもそもの事業の背景や現状、課題をオープンにし、市民の理解を得られる形で効率化を図ることで、限られた資源を有効に活用するための施策を全体最適で見直していかなければなりません。
こうして考えてみると、「事業仕分け」という特別な場でなくとも、各事業の担当者が目的と成果、指標の設定と測定、関係事業との連携や市民との協働の可能性など、もっと真剣に考えるための日常の機会を設けていくことが必要だということがわかります。
事業仕分けは、公の前で改めて事業の意味を考える貴重な機会となります。内輪の論理ではなく、過去の組織運営の方法を見直し、地域の課題を立場や部門を越えてどのように解決する支援ができるか、これをきっかけにさまざまな人が考え、動き出すことで、役所、そして地域が変わっていくのではないでしょうか。
プロセスデザイナー 宮入小夜子