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公共組織支援メールニュース 2010年11月

新しい首長の誕生から始まる行政組織と職員の変革

 去る11月13日、「経営行動科学学会」年次大会に出講し、元三重県職員である三重中京大学教授の村林守さん、南伊勢町長の小山巧さんと一緒にパネル形式で議論しました。コーディネーターは、日本橋学館大学教授であり当社のパートナーでもある宮入小夜子さんです。
 議論のテーマは、「地域ビジョン実現のための行政組織の変革とリーダーシップ」です。これは、昨年全国の自治体を対象に行なった「行政組織の組織風土改革調査」の結果から設定しました。同調査では、「行政組織には、風土・体質や職員の意識改革が必要か」という問いに対し、ほぼすべての首長が必要だと回答していました。しかし一方で、「職員が改革に意欲的に取り組み、十分能力を発揮しているか」という問いに肯定的に回答したのは4割強に留まっていたからです。特に、首長の一期目には、「マニフェストが総合計画に反映されている」という回答が5割強に留まっており、計画に落とし込まれていない段階での組織マネジメントには一層苦労があるものと推察されました。
 そこで、今年は、首長がマニフェスト等に掲げたビジョンを職員がいかに受け止め、自己の思考や行動、職場組織における習慣や仕事のやり方に変えていくのかを調べるために、首長の就任1年未満の自治体に特化して、行政職員全員を対象としたアンケート調査を実施しました。調査全体の詳細分析はこれからですが、「首長がマニフェストの中でまちづくりのビジョンを明確に掲げている」ことをほとんどの職員が認識しているものの、「首長の掲げるビジョンに対して、多くの職員が共感し、実現したいと思っている」という回答は半数以下という傾向が見られました。ここには、「首長の思い」と「職員の思い」のギャップが鮮明にでています。そして、就任後の首長にとっては、いかに職員の心に火をつけられるかが、当選後の最初の課題になっていることがよくわかります。


 議論の中で村林守教授は、「地域主権時代の組織経営改革」の全体像を解説されました。組織改革には、機構、制度、文化の三つの側面があること、三重県職員時代の経験から、各側面について、組織機構改革や経営システム改革、職員の意識改革が重要であること、また、改革ツールとしての総合計画のとらえ方を語られました。
 また、小山巧町長は、マニフェストで掲げたビジョンの実現に向けた「南伊勢町経営改革の取組み」を紹介されました。中でも、これまで「行政主導・行政依存」であった町政経営を、これから「町民参画、町民と役場の協働、役割分担」に転換していくために、「地域づくり支援事業」を創設して、全職員が地区担当として地域に出て、住民の声を聞き、町づくりに参画する行動を起こすところから始めていることに特徴がありました。「役場視点から町民起点に」行政サービスを変えていくために、課長とは毎月1回課長オフサイトミーティングを開催して、その目的や価値観を共有し、忌憚なく話す場としています。係長や一般職員ともフリートークの場を設けて、方向性を理解し、納得してもらうための自由な意見交換の場を設定されています。


 私は、変革支援の実践者としての立場から「新首長のマニフェスト実現のための変革プロセス」を提案させていただきました。自治体によって総合計画等の取り扱いが異なる現実があり、計画の見直しが速やかに進められなければ、役所内が新と旧の価値観が交錯するダブルスタンダードの状態に陥ってしまいます。マニフェスト実現に向け計画を変えるためには、首長と職員の間で対話を重ね、背景や目的から共有していくプロセスが必要であると考えています。
 地方自治体の首長は、たった独りで行政組織に飛び込んだ状態から改革をスタートします。そこから思いを共有できる職員を増やしていくことが貴重な第一歩となりますが、最初は、ものの見方、考え方など価値観にギャップが多くあることでしょう。両者の思いを理解し、翻訳や咀嚼をして橋渡しをしてくれる参謀役に助けを借りることも一つの方策と言えます。また、地域に入り、現実と向き合いながら住民目線を共有し、一緒に解をみつけていく中で関係が深まることもあるのだと思います。
 今後、私もこういった課題を抱えた首長や参謀機能を果たす経営幹部の皆さんと議論をする機会を増やし、どうすればいいのかの方策を一緒に考え、築いていきたいと思っています。


                  
 なお、学会後にお二人から感想をお寄せいただきましたので、下記にご紹介いたします。


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●小山町長より
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 地方分権時代、地域主権改革が求められる時代になり、地域のことは地域の責任で決めていかなければなりません。(地方分権は行政組織だけでなく地域の様々な活動に影響を及ぼします。)そのためには、地方自治体という行政エリアの地域経営においてビジョン、ミッションを明確にしていくことが従来にも増して重要となります。
 また、地域経営のコアになる行政組織が時代の変革に応じて自らも変わっていく必要があります。しかし、そうは言っても地方行政組織は選挙で選ばれる首長と長期に雇用されている行政職員がいて法律、条例などの諸制度により経営されるため、いつの時代も地域住民生活に最適の組織にはなかなかなりえていないのが現状だと思います。
 私は、三重県職員時代の数々の行政システム改革の経験や現在の南伊勢町で町長として役場が変わるために実践していることなどを発表しましたが、首長の思い(マニフェスト等)を実現していくことと総合計画のあり方、職員の行動等との関係性、組織経営改革等々についてのご意見・ご提言等をお聞きし、これらは経営行動科学学会の場だけでなく、首長を含めた行政組織の人たちにとっても有益なものになるだろう思いました。


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●村林教授より
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 どうしたら組織が変わるのか、という共通のテーマで、それぞれ違ったアプローチを持ち寄って議論したのはたいへん有意義でした。
 現場に役立つヒントもたくさん含まれていました。特に、地方自治体の行政組織を変えていくためには、地域ビジョンだけではなく、組織ビジョンが必要だという意見は、強く印象に残りました。
 私は、三重県の総合計画「くにづくり宣言」の策定に携わった経験があります。この計画には、「生活者起点の県政」という県政のビジョンを示していますが、「総合計画の進め方」のような位置づけで理解していました。これは、組織ビジョンだったのだ、と思いあたりました。
 地域ビジョンの重要性についての認識は一般的になってきましたが、組織ビジョンを明確にしている総合計画は少ないと思います。これからの自治体の総合計画の策定にあたっては、ふたつのビジョンを明確に描くことが重要だと、改めて認識しました。
 

プロセスデザイナー 元吉由紀子

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