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公共組織支援メールニュース 2011年03月

"想定外"の危機に問われる力

 東日本大震災で被災された皆様に、心からのお見舞いを申し上げますとともに、災害でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたします。今号では、このような大震災にあたって人や組織が俊敏に動き出すために必要な条件を、私自身の経験からふり返り、メッセージにしてお届けしたいと思います。


 今から16年前、1995年1月17日、私は神戸で阪神大震災に遭いました。そのとき痛感したのは、 個人も組織も、“考えて動く”よりも速く“感じて動く”スピードで「反応する力」が求められるということでした。
 それには、目の前で起きていることを見て、何を意味するのかを直感的に感じとる「情報感度」が重要です。それが避難や救助の成否に大きく影響したのです。
 例えば、当時「自衛隊は、県からの要請に基づいて出動する」というルールがありました。しかし、被災の真っただ中にあった兵庫県庁では、災害対策会議を開くために職員が集まることすらできず、被害状況を正確に把握することがままならなくて、「整理された数字情報」を基にした自衛隊への出動依頼を出すことができませんでした。自衛隊もまた、すでに出動準備をしていながらも、県からの依頼がないという理由から、独自に出動する命令を出さなかったのです。
 想定外の災害が発生したときには、日頃と同じ情報の質と量を求めることは不可能です。混乱した状況下で何をもって「確かな情報」とみなすのかは、人の判断によります。目に見える状況やわずかな情報でも、そこから大事な本質を読み取り、速やかに次の行動を起こしていくことが求められます。
 しかし、それは言うほど簡単なことではありません。被災したとき私は、様々に飛び込んでくる断片的な情報にあたふたするばかりでした。一方、戦地に出兵した経験のある父は、「“情報がない”という情報があるじゃないか。それほどの異常事態だということなんだ」と、テキパキと動き出していました。現場で情報を直感でつかみとる、その感度を磨くには経験が必要だということを、このとき知ったのです。


 実際に、震災のような想定外の危機に遭遇する経験のない私たちが、部分的な情報をもとに行動するには不安を感じます。そこで、その弱点をカバーしてくれるのが“人と人とのつながり”です。不完全な情報であったとしても、発信者が信頼できる人ならば、その情報を信じ、素早く行動することができるからです。
 この点、今回の震災では、阪神大震災のときに比べ、インターネットが普及している効果が大きくありました。人と情報をつなぐ手段として、メーリングリストやツイッター、ブログやホームページ等が様々に存在しています。そこでは、ジグソーパズルの一片にすぎなかった情報も量を集めることができ、多様な情報源を組み合わせることによって、より確かな意味を感じられるものにしていくことができます。また、情報発信者がお互いにつながりのある人を紹介し合うことで、情報を基に人が動くきっかけが生まれ、震災後の第二の反応が起こり始めます。


 未確定な部分情報をもとに動く必要があるのは、人だけでなく、組織も同じです。
 阪神大震災のとき、私がかつて勤めていた神戸製鋼所では、心臓部と言える高炉と本社が倒壊して、会社の存続さえも危ぶまれました。そのとき窮状を乗り越えられたのは、社員の力だけではなく、かけつけてくれた関係会社、早急に巨額の現金を融資してくれた銀行、そして、市場への部品供給を肩代わりしてくれた同業他社の協力があったからでした。組織が動き出すことには、より大きなリスクを伴います。しかし、長年積み重ねてきた“組織と組織の信頼関係”があればこそ、このような大惨事にそれぞれの組織の利害を越えて力を貸してくれることができました。


 そして、人と人、組織と組織がつながりを増し、助け合う力を拡大していく、もう一段反応レベルを上げるもとは、地域と地域を結ぶ、自治体間の連携にあります。
 被災地神戸では、県庁も市役所も、本庁舎と各出先機関との間で交通網、通信網が遮断され、通常の組織の指示・命令系統が発揮できず、職員は、個々の現場で判断して、行動していくしかありませんでした。また、人の命と財産を守る使命をもった病院や消防も被災して、自分たちの施設、地域ではその使命を果たしきれない状況にありました。そんな状況を助けてくれたのは、全国の自治体から応援にかけつけてくれた方々でした。
 東日本大震災では、被害は超広域にわたっており、市町村の役場機能が壊滅的なところもあります。救援、復興には、市町村・都道府県・国のタテの補完関係だけではなく、日本全国の自治体がヨコに協力し合う関係が欠かせません。各自治体では、医師や看護師、保健士、各種技士などによる専門チームを形成した職員の派遣、救援物資の集荷と配送、公営住宅・施設などへの被災者の受け入れ、義援金の受付など、地域として「できる限りのことをしよう」と全面的にバックアップする取組みを進めています。
 また、関西広域連合では、府県ごとに支援する県を分担するなど広域で支援体制を整備する動きも始まりました。この連携の背景には、やはり阪神大震災の経験から得た力が人と組織に根づき、生かされているのではないでしょうか。


 今、私は、そしてスコラ・コンサルトは、何ができるのか。日々、考え続けています。
 通常は、「確実で」「整理された」情報をもとに意思決定のルールを守って動いている組織と人が、いかに予測できない事態に弱く、「感覚的で」「部分的な」情報をもとに既存のルールによらず、俊敏に危機に反応して動く力が乏しいか。阪神大震災の経験で、私はそれを痛感しました。
 私が公共組織において変革に関わる取組みを支援することに力を注ぐようになったのは、変革にチャレンジする経験が、想定外の危機に直面したときに反応する力を鍛えることにつながると思うからなのです。住民の安全と安心を守る役割を担う公務員の皆様にこそ、その力が求められているはずです。
 公共組織では、年度当初に組織目標づくりが進められるようになりましたが、4月の目標設定にあたっては、すべての部署で「危機対応力の強化」の項目を入れておく必要があると考えます。そして、そのための人と組織の力をどう強化していくのか、今回の震災対応で実践したことを生かしながら、皆様と一緒に考えていきたいと思っています。
 

プロセスデザイナー 元吉由紀子

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