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公共組織支援メールニュース 2011年05月

地方自治体における"事業仕分け"の意味を見直す

 国が本格的に事業仕分けを実施する以前の2008年、東京都で初めて事業仕分けを実施したのが町田市です。
 事業仕分けといえば、財源捻出のために原則「廃止・不要」を目指し、役所の無駄を追及するという国の仕分けのイメージがすっかり定着してしまいました。2008年時の町田市における事業仕分けも、同様に、その多くは「ムダの排除」を迫る追及型で行なわれました。
 この時には、外部の視点から事業の必要性や効率性について評価を行なうことを目的に、構想日本に委託しました。このとき実際に仕分けをしたのは、自治体職員でした。34事業を一日で評価したために、一事業の話し合いは20分となりました。


 地方自治体の事業仕分けは、そもそも何のために必要なのでしょうか。
 昨年9月、私は千葉県柏市の事業仕分けの座長をさせていただきました。その経験から、地方自治体においては基本的に「廃止・不要」の事業は極めて少なく、住民の生活に密着した不可欠の事業を行なっているところが、国の仕分けとは大きく異なると感じました。
 厳しい財政状況の下、住民の理解と協力を促し、より公でなければ果たせない役割に資源を集中させるためには、担当者が問題意識をもって事業のあり方を見直し、住民に説明し、仕事の改善方法について新たな気づきを得ることが必要です。地方においては、日々の仕事の改善の積み重ねによるコスト削減と、住民理解にもとづく受益者負担の適正化、新たな公における多様な主体との協働によって財政が健全化されていくからです。
 そういった意味で、地方自治体の事業仕分けは、第三者である仕分け人が、行政の事業担当者と納税者であり受益者である住民との間に入り、中立的な立場で問題認識の共有化を図り、お互いの立場で納得できるよりよい方法を一緒に考えていくというプロセスが大事になってくるのです。


 このような考え方に共感した町田市では、このコンセプトを進化させて、二回目の事業仕分けを来る5月21日に実施することになりました。
 今回は、昨年度「包括外部監査」を受けた施設の中から、前回の仕分け対象事業を除いた11施設が対象となっています。その施設の設立目的と提供しているサービス、施設の運営・管理にかかる費用と収益、利用状況、過去に実施した改善と今後の課題について、事業担当者が積極的に情報提供します。そして、仕分け人とともに今後の施設のあり方と改善方法を考える機会として、事業仕分けを位置づけています。
 そのために、評価の項目も、従来の「不要(廃止)」「民間へ」「国へ」「都へ」「市で要改善」「市で現行どおり」といった実施主体や手法を分ける基準ではなく、改善を前提として、「不要(廃止)」、要改善「目的・対象など抜本的見直し」「サービス・予算ともに縮減」「サービス維持・拡大で、予算縮減」「サービス・予算ともに拡大・充実」「現状予算でサービス充実の努力を維持」という基準で評価することとしました。こういった基準で評価することにより、改善の方向性を明確にすることを目指しているのです。つまり、事業の廃止による予算の削減を目的とした仕分けではなく、市民の理解と協力を得ることで、継続的によりよいサービスを提供し続けるための仕事の改善を行なうことを目的としたのです。まさに「改善仕分け」といえるでしょう。


 事業仕分けを通して、仕分け人は事業担当者と「対話型」で論点を明らかにし、来場者もともに考え、改善点について納得が得られる合意をつくっていく。そのような対話のプロセスをつくっていこうと、これまで準備を行なってきました。
 重視したのは、チームワークです。学識経験者と市民で構成する仕分け人がチームとなって、「事業仕分け」というフィールドに立ちます。40分後には、改善を方向づけるゴールに向けて事業担当者と対話のパスを回せるようにしようということです。
 震災の影響で3月に予定していた仕分け人のキックオフができなかったために、理想どおりとはいえませんが、仕分け人は、より充実した対話を行なえるように、準備プロセスをつくってきました。事業仕分けが「仕分け人vs.事業担当者」という、その場限りの対決試合となるのではなく、準備の段階から互いのチーム力を高め、当日の対話を通して改善点を明確にします。それにより、事業担当者は納得感を得て、仕分け結果を踏まえた業務改善プログラムをみずから策定し、次年度予算編成にも反映できる実効性のあるものにしていくことを目指しているからです。具体的な準備プロセスを、ここに少しご紹介しましょう。


 仕分け人は、


(1)学識経験者と市民が仕分け人チームを形成
(2)キックオフミーティング
(3)メールで事前質問提出、各自で現地視察
(4)事前準備ミーティングで論点抽出
(5)当日


という準備プロセスを経ています。


 一方、情報提供をする事業担当者側も、短い時間で施設の概要を簡潔に、わかりやすく説明することが求められます。そのために、プレゼンテーションに関する考え方やスキルを研修で身につけるだけではなく、模擬仕分けを通じて、実際のやりとりを想定した演習を体験し、仕分け人や来場者の立ち場に立ってみる機会を設けました。


 事業担当者は、


(1)プレゼンテーション研修
(2)施設説明資料作成
(3)模擬仕分け
(4)事前質問への回答、説明資料の見直し、充実
(5)当日


という準備プロセスを踏んでいます。


 事業担当者は、もともと事業仕分けに対して「やらされ感」を抱きがちです。今回の準備では、その感覚を少しずつ「自分たちから進んで市民の理解を得ることが、新たな改善点を発見するよい機会になるのだ」という前向きな捉え方に変わっていくようになってきたのでないかと思われます。


 また、当初事業担当者が用意した施設説明資料に対しては、仕分け人から事前に質問事項を提出しました。この質問を通じて、行政側では説明できたつもりでも、外部の人や市民に対してはもっとわかりやすい資料を準備しなければならないことを知り、資料は見違えるほど改善されていきました。資料一つとっても、その表現のしかたによって、担当者の熱意の伝わり方は異なります。


 仕分け人もまた、丁寧に準備を進めました。前回、仕分け人たちは、事業仕分け当日に初めて顔合わせをした、という状態でした。しかしこれでは、互いにどのように問題を捉えているのかを理解し、議論を重ねて、納得のいく評価をすることは難しいのではないか、と考えたのです。そこで、事前にキックオフミーティングを設け、今回の事業仕分けの目的を理解し、対話型の事業仕分けのイメージを共有する時間をとりました。そして、町田市版事業仕分けの目的と仕分け人としての役割を理解したうえで、事業担当者が提出した資料に関する質問をメールで出し合いました。このプロセスによって、互いが持つ関心のポイントや問題意識を感じとっていきました。
 さらに、実際に施設を見学して認識を深め、再度集まって事前準備ミーティングも開催しました。この時点では、当日の対話の流れやそれを組み立てていく際の質問を出し合いながら、論点について検討をしていきました。


 仕分け当日は、来場者の方たちも事業担当者の説明を聞き、仕分け人との対話を通して、この施設の評価にリモコン操作で参加する機会が設けられています。会場の評価結果は仕分け結果に反映はされませんが、今後の業務改善プログラムの参考にさせていただくこ
とになっています。
 今回の機会で、仕分け人チームと事業担当者との学習プロセスに来場者を巻き込んだ「全員参加型」での新しい事業仕分けの形を実現できたらと思っています。



                  ▼町田市事業仕分けの情報はこちらから
  http://www.city.machida.tokyo.jp/shisei/gyousei/jigyoushiwake2011/2011jigyoshiwake.html
 

プロセスデザイナー・宮入小夜子

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