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公共組織支援メールニュース 2011年08月

「新たな道」を自ら拓く

 先日、官民の勉強会「浩志会」メンバーで構成された「みなづき会」で講演の機会をいただきました。参加者は、官庁や日本を代表する企業で活躍されている女性の方々です。当事者意識と組織風土をテーマに皆様にお話ししたのです。講演タイトルには「自分を知り、自分を変える」と記しました。


 講演終了後、ある参加者から「日本の企業では、なぜ役員などの指導的地位に占める女性比率がきわめて低いのか」という問題意識が投げかけられました。この方は、総理府や内閣府で男女共同参画の仕事に携わられ、その問題意識には、日本の将来への強い憂いが感じられました。
 折しも8月18日付日経新聞夕刊には、ベルギー、オランダでは役員の3、4割を女性に割り当てる法律が成立したという記事が一面を飾りました。欧州では、上場企業と公的機関に一定以上の女性役員登用を義務づける制度の導入が加速しています。同記事によれば、日本の国内主要企業の女性役員比率は1%に届かず、その女性役員のうち4分の3は社外取締役だそうです。


 私は今、「スコラ・コンサルトの代表とプロセスデザイナー(仕事)」「大学院生(研究)」「妻・母親(家庭)」という3つの役割を持っています。この3つ、どれか手を抜こう、諦めよう、と考えたことはありません。「あれも足りない」「これもできていない」という批判的な目で見たら、どれも落第点かもしれません。しかし、できていないところに焦点を当てるよりも「これとこれは自分がやり遂げる。他は、誰かが必ず助けてくれる」という安心感をもとに、日々、行動しています。
 しかし、私もかつて「仕事」か「家庭」か、選択を迫られた経験があります。自分にとってどちらも重要であり、諦めることはできませんでした。仕事も家庭も共に実現するという新たな選択をすることができたのは、家族、友人など多くの人の支えはもちろんのこと、仲間やお客様が成長のために厳しく向き合ってくれる「仕事環境」と、どうしても実現したいという強い「当事者意識」があったからでした。今もそれは同じです。
 「こうありたい」を実現していくには、何かを諦めるのではなく、「新たな道」を拓いていくことが必要だと、私は実感しています。


 「新たな道」を拓く必要があるのは、女性活用の問題に限ったことではありません。現在の日本では、厳しい経済環境や社会の成熟に伴い、「A」か「B」かというシビアな二択を迫られる局面が数多くあります。しかし、一方の選択肢を切り捨ててしまうような決断で、ほんとうに未来を創っていけるでしょうか。何かを諦めるのではなく、より高度な第三の選択を皆で考え抜き、「新たな道」を選ぶことができる環境を準備していくことが、ありたい姿に近づいていくのだと思うのです。


 ここである企業、Y社の事例をご紹介しましょう。


 Y社は体力勝負の仕事のせいもあり、典型的な男性中心の企業ですが、本部スタッフなど縁の下の力持ちの仕事に多くの女性が携わっています。この会社で、イキイキと活躍されている女性のKさんに出会いました。
 Kさんは今、Y社のグループ会社の社長をしています。親会社のY社にいたときには、同社で数少ない女性課長として働いていました。しかし、女性の扱いに慣れない上司と折り合いがつかず一度退職をした後、現在の会社に再就職しました。
 Y社と同様このグループ会社も、男性が多い職場です。その中で女性であるKさんが経営者となり、イキイキと働けるのはなぜなのか。Kさんの答えは「チャレンジできる環境をもらえたこと、そして、自分らしく仕事をしたいという思いがあったから」というもの
でした。
 実は、再就職したときのKさんの上司は、現在Y社の社長をしているSさんでした。よくよく聞いていくと、S社長が過去にマネジメントしてきた職場は、他の職場に比べて、圧倒的に女性管理職が多いそうなのです。その理由は、以下にご紹介するエピソードが物語っています。


●「会社の代表として、会議に出席させます」
 あるとき、Kさんが他社合同の会議に会社の代表として参加する機会がありました。そのときS社長は、会議に参加する他社に「Kさんを会社の代表として出します」と事前に伝えたそうです。


●「これはKさんにやらせるから」
 S社長は、責任ある業務に対して「これはKさんにやらせるから」と、あえて他メンバーの前で発言します。誰が責任を持って行なう仕事なのかを全員の共通認識とし、Kさんの自覚を促したのです。問題が生じたときには、上司ではなく、責任者であるKさんを直接叱ります。


●「失敗したことを話そう」
 職場には、失敗したことやうまくいかなかったことも共有して話し合う仕組みがありました。S社長は、対話を通じて失敗を恐れない風土を醸成し、皆が協力し、チャレンジできる環境をつくっていったのです。


 これらのエピソードからわかるのは、S社長が「協力し合い、成長し合う風土づくり」と「本人の当事者意識の醸成」を常に意識されていたことです。それにより、Kさんは皆と協力しながら主体的に仕事に携わることができました。今では経営者として、社員が自分らしく働ける環境創りの担い手になっています。Y社グループでは、女性経営者はKさんを含め二人いらっしゃいます。S社長の環境づくりと本人の当事者意識が、女性経営者を生み出すという同社にとって新たな道を創り出したのです。


 まずは自らが当事者であること。そして「お互いさま」の意識で協力し合い、切磋琢磨して成長していく環境をつくっていくこと。私も日々それを強く意識し、未来を切り拓いていく当事者でありたいと思います。

                      
※「一般財団法人 浩志会」
  http://www.z-koushikai.or.jp/
1981年に発足した官民勉強会。「日本の将来を担う官民の人材の養成に関する調査研究等を行ない、社会の発展と国際社会への一層の
貢献に寄与する」ことを目的としている。「みなづき会」は、同会から2003年に立ち上がった女性限定の会。
 

スコラ・コンサルト代表 プロセスデザイナー 水迫洋子

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