Column コラム
公共組織支援メールニュース 2011年10月
首長の思いをいかに職員の思い、行動に変えていくか
10月9日、自治体学会大会の分科会に出講しました。テーマは、「地域分権時代の行政組織の変革とリーダーシップ~行政組織(役所)風土と職員意識改革の実現を目指して~」とし、三重中京大学教授の村林守さんによるコーディネートのもと、南伊勢町長の小山巧さん、日本橋学館大学教授であり当社のパートナーでもある宮入小夜子さんと一緒に議論をしました。
私は、パネラーとして「首長の思いをいかに職員の思い、行動に変えていくか」について話しました。それは、首長が誕生した2年目は、首長にとっても、職員にとっても踏ん張りどころだ、と思っているからです。
私がこう思うようになったきっかけは、一昨年全国の自治体を対象に行なった「行政組織の組織風土改革調査」の結果にありました。首長の一期目には、「マニフェストが総合計画に反映されている」という回答が5割強に留まっていたのです。
『計画行政』という言葉がありますが、どんなに熱意を持ってマニフェストを掲げ、住民から付託されて当選した首長であったとしても、正式な計画に落とし込まれていない段階で、組織をマネジメントしていくことには苦労を伴います。
それは、新しい首長を迎えた行政職員にとっても同じです。どんなに精緻なマニフェストが示されたとしても、それがしっかりと計画になっていないうちは、どのように実現すればいいのか、また、従来の計画をそのまま推進してよいものか、新と旧のダブルスタンダードが発生する中で判断することは難しいものです。
そこで、職員は「間違ってはいけない」という懸念をして、首長に「どうしましょうか」とお伺いを立てることが多くなります。ただし、それに対して首長は「こうしてくれ」とストレートに指示を与えてしまったのでは、いつまでたっても“指示待ち”の状況から抜け出せなくなるでしょう。そこで、首長は、一々指示をしなくても自分の意図するところを理解して、職員がみずから主体的に考え、行動できるようになってほしい、そんな願望を抱き始めます。
しかし、首長の思いを職員が共有して、主体的にできるようになる変化は、そう簡単に生まれるものではありません。特に、新しい政策の方向づけや、従来の役所や職員のやり方とは異なる仕事のし方を求めるような内容をマニフェストに掲げている場合には、なおさらです。私は、そこにいくつかのステップが必要だと考えています。
ひとつは、首長が就任した直後に、まず首長が職員にマニフェストの意図することをきちんと伝え、職員が『認識する』ステップです。ここでのポイントは、フェイストゥフェイスで言葉の背景にある思いやエネルギーが伝わる対話を行なうことにあります。
ふたつめは、職員がその理解をもとに、具体的に自分で何をやるのかを考え、目標として設定する『意思を持つ』ステップです。しかし、この段階ではまだ新しい総合計画や行革大綱など計画自体が変更されていないため、職員にとっては、目標設定に際して不安やとまどいがつきまといます。そこで、役所内の組織運営方針や目標管理の仕組みを活用し、首長と部課長とが面談する機会を利用して個別に対話する時間を設け、目標の設定理由や判断基準のすり合わせを行なっていくことが重要になります。
そこからやっと目標達成に向けて『行動する』三つ目のステップが始まります。ただし、先に設定した目標は、まだ半信半疑な状態で設定していますので、真に自発的にこのプロセスが繰り返され、風土・体質となり得るかどうかは、やってみた結果をふり返り、「やってよかった」という実感を得られるかどうかにかかってきます。
新しい首長就任2年目は、そんな意思と行動が、鶏と卵のような関係で回っている段階と言えるでしょう。そのゆらぎをどう乗り越えていくかが、今後の体質づくりにおいて重要な節目となるだろうと感じています。
村林さんが分科会の冒頭で、組織改革には<機構、制度、文化>の三つの側面があると提示されましたが、これらは個々にバラバラにではなく、一つのシステムとして機能させていくことが、現場の中で実践していくうえで重要になっているのだと思います。私は、首長と職員、またその両者の間にあって参謀機能を果たす経営幹部の皆さまとともに、今後も議論を重ね、よりよい方策を一緒にみつけていきたいと思っています。
南伊勢町では、ちょうど首長就任後2年目にあたり、首長がマニフェスト等に掲げたビジョンを職員がいかに受け止め、自己の思考や行動、職場組織における習慣や仕事のし方に変えていくのかについては、行政職員全員を対象としたアンケート調査を昨年と連続して実施することができました。この調査結果は、宮入さんから発表いただきました(詳細は、次号にてご報告します)。そして、小山町長からは、現場でどのような取組みをされてきたのかを伺うこともできました。
以下にコーディネータの村林守さんと南伊勢町小山巧さんからいただいた事後のメッセージをご紹介いたします。
●村林守教授(コーディネーター)より
宮入さんからは、柏市と南伊勢町の職員アンケート調査を発表していただき、職員のマインドに対してどのような要因が働いているのかについての仮説の提起をいただきました。小山町長からは、就任後約2年間の実際の取組についてご紹介いただき、町長の行動に職員がどのように反応するのか、貴重な事例を提供していただきました。元吉さんからは、組織風土改革をどのように進めたらよいのか、一つのモデルを提供していただきました。
三つの異なった角度からの発言が、組織風土改革の重要性を浮き彫りにするとともに、その進め方について具体的な提起がされました。聴衆である自治体関係者には、たいへん大きな収穫があったはずだと確信しています。
時間の制約もあり、三人のパネリストの発言やフロアの発言からさらなる議論を引き出すことができなかったことは、残念に思っていますが、実りある分科会であったことは間違いありません。
●小山巧町長より
10月9日の自治体学会では、コーディネーターの村林さんから自治体改革を進めるうえでの組織風土改革における首長のリーダーシップ、行動などについても問題提起がなされ、私は町長に就任した時に掲げたマニフェストを実現するための町政経営の転換の取組みを報告しました。
報告の主要点は、行政組織の経営改革と自治体の経営改革の両方を進めるための仕組みづくりと職員、町民との対話・意見交換などによる思いの共有です。
その中で、新たな総合計画を策定し、それに基づいて町民起点の町づくりを進める前提として、行政依存・行政主導体質から町民参画、協働・役割分担体質へ転換していくために取組んでいることなどを話しました。
南伊勢町は人口15,000人、町行政職員140人の小さな町です。職員との対話はもちろんですが町民との直接対話も案外可能です。まずは役場のあり方改革に取り組むために職員との対話から始めているのですが、私の就任1年目の昨年、2年目の今年と2年続けて行なわれた南伊勢町職員の意識調査結果についての宮入さんからの報告によると、1年目と2年目とで職員の意識の変化や行動の変化があり、私の働きかけの有無が職員の意識に影響を与えている様子がよくわかりました。私が力を抜いたところや入れたところが、おおよそ見えてきます。
組織の体質変革・風土改革は理屈ではなく思いを持った働きかけ、関係性づくりが大きい要素となります。
町長就任1年目の昨年は経営行動学会、2年目の今年は自治体学会でこの自治体経営改革についてのパネルディスカッションに参加させていただいたことで、自分の町経営改革の進み具合、悩み具合も見えつつあります。
分科会には大勢の自治体職員の方に参加していただきました。その中で、たくさんいただいたご質問からは、みなさんそれぞれの部署で悩みながらも前に進めようと努力されているご様子を感じました。大変有意義なパネルトークだったと感じています。
プロセスデザイナー 元吉由紀子