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公共組織支援メールニュース 2011年12月

「対話型」事業仕分けの目指すもの

 例年、経営行動科学学会で自治体の組織風土改革をテーマに発表を行なっています。今年11月に開催された同大会では、「事業仕分けは地方自治体職員の意識を変えるのか? ~『対話型』事業仕分けが職員意識の改革に与える影響についての実践的研究~」というテーマで発表しました。
 発表内容は、「対話型」の事業仕分けを実施した自治体のうち、柏市で、説明担当者を対象としたプレゼンテーション研修受講前と受講後、そして事業仕分け終了直後にアンケート調査を行ない、職員の意識の変化を調査した結果をもとにしています。


 調査における20項目の質問内容と結果の概要は、次のようになっていました。


(1)事業仕分けの対象事業に関する認識(自信感)
(2)市民に対する成果および情報提示の自己評価
(3)プレゼンテーションスキルに関する自己評価
(4)事業仕分けに関する認識(捉え方)


 担当事業に関する認識(事業の意義、市民ニーズとの合致に対する自信)は、受講前は、思い込みや主観的に高く評価していたのが、研修受講や仕分けでの議論を通して客観的に認識し直して、低くなる傾向がうかがえました。
 市民に対する成果および情報提示の自己評価(市民に理解される成果指標、目標達成のための課題を設定している)は、研修前後はほとんど変化がなく、仕分けプロセスを通して高まりました。それまであまり意識されていなかったのが、仕分けのための資料作成や仕分け人からの質問を通じて意識的に設定され、指標の妥当性などについても認識されるようになったためと考えられます。
 プレゼンテーションスキル(論理的説明、全体の中の位置づけ、好印象や共感の獲得ができるなど)については、市民への説明責任を果たすためのスキルや内容、心構えなど、研修受講後、関心が高まっています。
 事業仕分けに対する認識(市民に理解してもらえる、事業を改善する、自己の能力を向上する機会としての前向きな捉え方)は、研修前より研修後、および事業仕分け終了後と一貫して上がりました。事業仕分けの対象となった担当者は、一般的に、資料の準備や質問への対応、心理的プレッシャーなど、負担感や後ろ向きの気持ちを持ってしまいがちです。しかし、事前に研修で説明のし方や演習をする研修を受けることで、事業仕分けの意義や市民に対する説明責任の重要性などについて理解し、この機会を自己の成長や事業を見直すよい機会であるという捉え方ができるようになったことがわかります。また、事業仕分け当日は、説明とそれに対する質問のやりとりなどを傍聴者の前で対話を通じて行なうことが、有意義な機会であると認識できたという結果が読み取れます。


 以上のように、「対話型」仕分けは、職員の意識改革に関して有効であることが示されました。
 しかし、意識が変わった結果は、行動に結びつかなければその意義を確認することが困難なものです。そのため、意識改革の先に何を目指すのかということがより重要になってきます。
 事業仕分けの機会を通して学習し、自ら変革の必要性に気づく。そのことを職員が前向きにとらえ、考え方を変えて計画を見直し、仕事のやり方を変える改善を進めるところまでつなげていく必要があります。
 本来、対話型の事業仕分けは、外部の知恵を借りることを目的としています。外部の有識者や市民とのやりとりを通した気づきや新たな課題の認識は、改善のレベルアップをはかる機会をもっています。
 従来型の事業仕分けでは、せっかくの意識改革の機会が実際の改善行動への改革につながりにくいという問題が生じてきます。指摘されたことも、担当者が受け身のやらされ感でとらえたのでは、指摘されたなかで、できるところだけをやる、といった改善しかなされません。
 対話型の事業仕分けの場合には、担当者が主体的に見直す意思を持つことによって、事業単体ではなく、隠れている他の事業との関わりをとらえ、事業をより上位の目的から抜本的に見直す構造的・根本的な問題解決を図る改善を生み出していく可能性をもっています。
 今後は、これまでの「対話型」事業仕分けの結果を踏まえ、その特性を生かして、複数の関連事業単位で見直していくことや、さらには部署をまたがる類似事業を関連付けながら新たなサービスの在り方を考えていくような改善を意図したうえで、外部視点の導入や市民参加による評価を生かした取組みに発展させていくことが望まれます。


 このような問題意識から、千葉県松戸市では、これまでのような業務レベルではなく、事務事業を束ねた基本事務事業を単位としたほか、これまで行なってきた内向きの「行政評価」利点を結びつけ、新たに「事業優先度評価」として実施をしました。
 これにより、単に仕分け対象業務の有無だけでなく、現在行なっている事後の改善プログラム策定研修の中では、当日の有識者からの提案や指摘も含め、アウトカムに基づいたそれぞれの基本事務事業のあり方や政策目的体系の見直しなども含めた改善の議論が前向きに行なわれているところです。
 松戸市における一連のプロセスについては、またご報告させていただきますが、こうした新しい試みによって「対話型」事業仕分けが発展しつつあるように思います。


 

プロセスデザイナー  宮入小夜子

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