Column コラム
公共組織支援メールニュース 2014年04月
「行政経営システム総点検」をしませんか~仕組み相互の"つながり"に目を向ける~
この十年あまりの間に行政改革が進み市区町村合併、予算や人員の削減、民力の活用など、さまざまな痛みや苦労を乗り越えて、かつてのような危機的、病的な症状がずいぶんと治まってきています。訪問先のさまざまな自治体でも、職員の皆さんのがんばりに数多く出会うようになりました。
さらに、この流れを継続していくため、各種の目標管理制度を導入して、首長から第一線の職員までが、PDCAサイクルの各場面に応じた取組みを行なうようになっています。
《PDCAサイクルを意図した取組み》
・首長は、マニフェストに掲げた政策目標の達成に向けて進行を管理する。
・各政策の推進にあたっては、地域の課題について役所だけでなく住民が自ら解決していくために、協働で取り組む。
・総合計画の企画立案においては、市民参加型のワークショップを開催し、評価においては、事業仕分けなど外部評価に市民も交える自治体が出てきた。
・役所組織内では、政策目標を確実に果たしていくために、人事評価制度の中に業績評価を加え、個人別の給与に反映させる動きが出始める。
上記は個別に話を聞くと、立派な組織運営がされている証に見えるものばかりです。しかし、これらの仕組みを全部並べてどのように連鎖、連携しているのかをよく見てみると、本来つながっているべき仕組みと仕組みがバラバラに運用されていたり、当然あるべき仕組みが抜け落ちていたり、行政組織全体の経営を機能させる一連のシステムとして見た場合には、お粗末な整備・運用状態にあることがわかってきます。少し、例をあげてみます。
《経営システムの整備不良と機能不全》
・首長のマニフェスト管理をしながら、もう一方で前首長時の総合計画が存在し、二重の進行管理をしている。
・「総合計画」が存在していても、管理職や職員のほとんどが関心を寄せていない。
・政策の進行管理に欠かせない「事務事業評価」がその昔導入された後、職員の抵抗に遭って頓挫してしまった。
・人事評価制度を導入していても、個人目標の前提となる組織目標が示されていない。
かつて先進的に改革に取り組んだ自治体でさえも、首長や担当者が替わるうちに、「何のために変わるのか」の目的意識が薄れ、「仕組みがあるから大丈夫」とその機能が低下していることに疑問すら感じにくくなっている“ゆでガエル状態”に陥っています。
行政組織では、民間企業のように組織内の仕組みに漏れや詰まり、かい離やすれ違いがあったとしても、すぐに仕事の成果や業績に影響が表れにくいところがあるため、問題が見過ごされやすい状況にあります。今後はここにどうやって目を向け、手をつけていくことができるかがポイントになるでしょう。隠れた行政課題の存在を顕在化するためには、行政経営を“システム”としとらえ、「総点検して、診断する」ことが必要です。
ただし、問題が見えるようになったとしても、問題を解決するための手立てを打つ行動に移らなければ、真の解決はできません。どんなに「行政も経営する時代だ」と言ってみても、それぞれの行政組織は、もともと単独の目的をもって成り立っている組織ではなく、国家を支える一律の機能がベースにあるわけです。これに地方分権の流れが加わって、地域独自の政策目的を付与した経営意識が高まってきた存在です。それだけに“経営体”としてどれだけ独自の魅力を高めるビジョンを持ち、実現していけるのかは、その目的を心根に持つ首長とその思いに共感する職員自身の意志の強さと行動力にかかっています。
“仕組み”をつくるだけならば一担当課でできますが、それらを経営システム”として運営していくには、全部署、全職員を巻き込む必要があるのです。首長がマニフェストに掲げた政策目標も、トップダウンの指示・命令でできることは極一部です。職員が地域に出向き、住民と向き合う中で、現場の声と力を吸い上げるボトム
アップが伴うことによって、政策の実現性は高まります。それには、組織全体が活性化され、首長から現場の職員までが一丸となって取り組んでいくことが大切です。
さまざまな仕組みは相互のつながりをもつことによって、住民と役所、政策と業務、仕組みと運用、組織と人、管理職と職員など、異なる特性をもつもの同士がそれぞれの機能を掛け合わせて効果を最大化できるようになってきます。
「行政経営システム総点検」で、みなさんも役所内のつながりを見直してみてはいかがでしょうか。
プロセスデザイナー/行政経営デザイナー 元吉 由紀子