Column コラム
公共組織支援メールニュース 2014年05月
公共セクターの人材育成を通した組織変革の条件づくり
長く続いたデフレ経済下での定員削減や財政悪化に伴い、公務人材の育成や採用の在り方など、新たな課題に取組む必要に迫られています。従来型の公共セクターで人材開発を担当する部署も、研修部門の殻を脱皮し、限られた人員や予算の中で、最大限の機能を発揮することにより、公共組織や人材の成長に寄与できるかの存在意義が問われているともいえます。
公務人材開発協会は、公務部門の研修機関が自主的に研究・交流を行なう協議会として昭和20年代末から活動をしてきた非営利団体です。国・地方公共団体等公共部門の指導者養成、研修・人材開発に関して支援に取組み、毎年一回、国や地方公共団体の人事部局や研修担当部局などの会員を対象に、人材開発研究会を開催しています。
今年は「組織活性化―人の可能性を引き出す」をテーマに、3月6日に開催されました。今回、私は国や地方自治体、裁判所や独立行政法人などで人材開発、研修の企画・運営に関わる約50名の方たちとワークショップ型の講演をする機会をいただきました。そこで、公務組織が変化に対応できる組織づくり、行政課題の解決に主体的に取組み、行動することのできる職場のリーダーの育成のための研修と連携した職場変革について、オフサイトミーティングを体験してもらいながら、活用事例を紹介しました。この機会を通じ、人材育成担当者(部署)が研修という機会を活用して、自律的な職員が育つ行政組織・職場風土を、どのように醸成できるのかを考えてもらいたい、と思ったのです。
参加者は、オフサイトミーティングの方法論を理解し、机をはずして椅子だけで扇形に座り、5人一組で早速、対話を始めました。オフサイトミーティングならではの気楽な雰囲気の中で、「目前の仕事に直結するような研修には参加するが、今後必要となる政策決定に関する研修などには参加希望者がない」「人材育成の研修はどこに焦点をあてて企画すべきか」「研修の評価が良くても、その後の行動変容に結びついているか」「担当者が毎年のように人事異動で変わる研修部門の業務のあり方をどうするか」など、各グループで人材開発・研修担当者の「研修・人材育成についての課題・悩み」を共有しました。
私は、人材開発の担当者がどのような場面でオフサイトミーティングを活用できるのか、事例を通じ5つのケースを提案しました。
(1)研修をオフサイトミーティングの話し合い方で行なう
討議結果を書いてまとめて発表させるのではなく、机を取り払うなど気楽な雰囲気を演出し、対話を促進するやり方です。思いを伝えるような自己紹介(ジブンガタリ)を中心に、業務の現状やモヤモヤしている事など、情報共有に目的を絞って実施します。管理職なら、部下育成について何に困っているのか、どういう部下を育てたいのか、そのためにはどうしたらよいのかなど徹底的に話し合います。研修時の一回限りにせず、相談相手を紹介し合い、仲間を広げていくこともできます。
(2)オフサイトコーディネーターを養成する研修
オフサイトミーティングの呼びかけや場のコーディネートスキルを演習形式で身につけます。職場の日常で、気楽にまじめな話をし、自分が感じていることや違和感を口に出し、対話していく職場環境づくりを促進するスキルです。管理職が対象の場合は、対話を促進する職場環境を整えるスポンサーシップ型のリーダーシップスタイ ルを身につけていく研修も有効です。これは、対話の大切さを理解し、会議運営や話し合いの場で傾聴し、本音を引き出し、職場の活性化につなげていくマネジメント能力につながっていきます。
(3)研修を通じて課題解決を行なうアクションラーニング
オフサイトミーティング形式の研修を、年間2回、3回と継続して行ないます。継続することが、「職場の課題設定」→「(職場での課題共有・実行、試行)」→「現状共有・相談、作戦オフサイト」→「(職場で対話・実行)」といったPDCAサイクルを回し、解決のための行動に結びついていくのです。
(4)組織ビジョンや目指す姿を研修の場でつくり込む
部門を越えたメンバーで、組織ビジョンや目指す姿について議論を重ね、一緒につくっていくことで、それに近づけるための現状の課題を明確にし、組織ビジョン実現に向けて課題に取組むチーム意識やモチベーションを上げることができます。
(5)縦割りの関係を越えた組織横断ネットワークの形成
部署を越えて人を集め、大きなテーマでじっくり議論する場の設定は研修部門だからこそできることです。研修担当者がハブになることで、研修に参加してきた人達をつなぎ、変革への思いを持つ人の発掘や変革シナリオを描くコアメンバーのネットワークを構築するための世話役機能を果たすことができます。コアネットワークは、 長い目で見ると組織にとって財産になります。 重要なことは、人材育成を個々人を教育することとして捉えるのではなく、人材開発・研修部門が人材が育つ職場環境をどのように創り出していくかという視点を持つことです。
今回ご紹介したように、オフサイトミーティングを職場改革・人材育成の機会の創出に活用することで、人材開発担当部署が組織変革の担い手として条件づくりをしていくことができると確信しています。
プロセスデザイナー/日本橋学館大学リベラルアーツ学部教授 宮入 小夜子