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公共組織支援メールニュース 2014年07月

Fujino(藤野)での暮らしから得る学び ~自発的なオープンネットワーク

 私が神奈川県の藤野(※1)に移住してから、約半年になります。昨年末に移住しましたが、それについて周囲の反応はおもしろいほど二分しました。一つは「昔ながらの田舎暮らしがしたかったんだね」というもの。もう一つは「何か新しい不思議なことを始めようとしているんだね」という反応。
 私の移住の動機は、田舎暮らしをしたかったというわけではありません。3.11の少し前くらいから感じ始めていた世の中の地殻変動(※2)の先にあるものが、ここ「Fujino」にありそうな気がするという直感があったのです。ただただ、その直感に純粋に従い、短期間で移住を決意し、行動していました。
 その直感が、半年ほどたった今、少しずつ言語化できるようになってきたように思います。「Fujino」は、まだわれわれが見たことのない新たな時代を先見し、その一部を体現しつつある「場所」“Ba”であるということです。ここで言う“Ba”とは、物理的な“Place”というよりは、もっと広い意味での“Space”という意味に近い。未来に半歩ほど近いところにいる、好奇心にあふれた多種多様な人たちが集う“Ba”。
 

  「Fujino」では「トランジション・タウン」の活動が、2008年日本で初めて産声を上げています。「トランジション・タウン」は、イギリス南部の小さな町・トットネスで始まった、持続不可能な社会から持続可能な社会へ移行するための市民運動のこと。 市民が自発的に地域の暮らしを考え、行動し、意識をもって日々の暮らし方を変えていくことが、その本質です。しくみありきではなく、人や情熱ありきなのです。消費者からいかに市民になっていくかを目指しています。
 分野は特に限られません。現在は地域通貨、食と農、電力(藤野電力という団体もあります)、医療・介護、森林資源の保護・活用、内なるトランジション(個人の意識変容、他者との関係性の変容)などなどが、自発的なオープンネットワークの中で盛んに動いています。「やりたい人が、やりたいときに、やりたいことを、やりた いだけやる!」が合言葉です。

 移住して間もなくのこと、大雪が降り、山梨県の一部を中心に交通が寸断され、藤野もその渦中に飲み込まれました。私はこのとき、大阪出張から東京に戻ってきていましたが、中央本線は高尾から先が不通で、国道20号も峠の大雪で不通。つまり、藤野から山梨にかけて、陸の孤島状態になっていました。私もまた帰宅できず、八王子のビジネスホテルで二日間を過ごしました。この状況のなかで、私は、藤野に移住したことは間違いだったと思ったのでしょうか。いやいや全く逆です。 それは… 。
 私の加入している藤野の地域通貨「よろづ」ネットワークのメーリングリストから、投稿を二つご紹介します。
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《以下、「よろづ」のネットワークのメーリングリストより抜粋》

 ●おはようございます。つっちーです。皆様ご無事でしょうか? 相模原市だけの力ではどうにもできない状況になってきてしまいましたね。自分たちでどうにかしないとマズい感じです。まずは除雪した雪を入れる場所の確保でしょうか? 藤野小学校や中学校などの校庭に雪を集めるのは可能なのかな? 皆様も困っていることなどあったら「よろづ」メールを活用してください。雪の被害、除雪情報など、各地区(上野原市、相模湖、藤野、高尾など)の状況教えていただけたら助かります。

 ●先のメールでありました、大雪で電車が藤野駅で立ち往生した関係で、藤野公民館と、総合事務所に避難されていた280名の方々についてですが、昨夜、電車を、一時動かすことができ(中央線が復旧したということではありません)東京方面に、すでに移動されました。配給も毎食パン各1つだけなどの話を聞いたので、大変そうな方だけでも、宿泊やお風呂だけでもどうかと思って、様子を見に、先ほど、行って確認してきましたが、この件は、解決しているそうです。ご心配されている方もいらっしゃるかと思い、ご報告まで。
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 私にとって残念だったのは家に戻れず、このような動きに加われなかったことでした。町全体がやさしい雰囲気ややりとりに満ちていたのです。ここには、まさに未来に求められる組織の姿がありました。
 特に中心人物がいるわけではありません。ネットワークの一人ひとりが、この非常事態の中、リーダーシップを発揮して自ら考え、動き、その結果をメーリングリストに次々にアップしています。それはさながら、生き物のようなネットワークにも見えます。中央で統制するしくみや人がいないのに、お互いの動きをケアしながら、全体が一つの方向にダイナミックに動いています。 私の理想とする「草莽崛起(そうもうくっき)」のイメージがここにあります。しかも、それはコミュニティの中だけでお互いに助け合おうというものでなく、藤野近辺で電車や車で立ち往生し、公民館等に避難している方々へのケアも含まれます。「オープンネットワーク」なのですね。

 私がFujinoから学んでいることをキーワードにすると、次のような感じでしょうか。
  「自律分散と全体最適」 「クリエイティビティ」 「人はみなアーティスト」「多様性」「自給自足」「贈与経済」 「里山資本主義」「グローバリゼーションとローカリゼーション」 「社会関係資本」 等々…。
 このような動き方は、ビジネスの世界でも見習うべきでしょう。いや、このような動き方をビジネスの文脈に置き換えて、上手に取り入れられない組織は滅びていくしかないというのが私の見方です。

※1 藤野  神奈川県の旧藤野町。合併によって相模原市緑区に編入。 山梨県との県境に接する北西端の町。
※2 世の中の地殻変動  中野民夫さんのワークショップ等に通い始めたのが2010年秋。その流れで山口県祝島での原発をめぐる問題を扱った映画  『ミツバチの羽音と地球の回転』を観て、初めて原発への関心  を持った数日後に、東日本大震災が起きました。

プロセスデザイナー 野口 正明

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