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行政経営デザインメールニュース 2021年01月

行政に求められるようになった戦略マネジメント(下)

■目標を達成できる見込みはあるか

前号「行政に求められるようになった戦略マネジメント(上)」では、
http://gyousei-design.jp/column/2020/12/post-122.php

三重県南伊勢町で、2019年度に策定した総合計画「新絆プラン」の 中に30年後のめざす姿とその実現を図るV字回復戦略が設定されたことをお伝えしました。
南伊勢町は、人口12,000人ほどの過疎の町で、若者の流出が著しく 60年間人口が減り続けています。そのため、2045年には人口が約 4,000人まで減少すると推計されています。そこで、消滅の危機を回避するために、2025年を底として年少人口をV字回復させる戦略 目標を掲げ、「子育て・常若教育戦略」「業のイノベーション戦略」 「暮らしやすさ戦略」の3つの戦略プロジェクトにそれぞれ重要業績指標と目標値を設定した戦略計画を立てて取り組んでいます。

しかし、既存の施策、事業をその延長線上で改善するだけでは、V字 回復目標を果たすのは困難です。幅広い視点から、新しい発想を取り入れて、革新的な策を打ち出していくことが必要となります。さ らに今後は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、アフターコロナの新時代に向けて大きく社会変化をとらえた対策も必要とな っています。

■新たな知恵・力を外から得るための施策レビュー

そこで、以前から予定していた施策評価にあたって、前年度の執行 状況を評価することよりも、次年度以降を見通して、①アフターコロナの新時代への対応に向け、戦略目標の達成方法を大きく見直す 必要が出てくるものと、②既存の計画・取組みだけでは達成が見込めないと考えられるものの2点に該当する施策について、外部委員 から新しい視点やアイデアをもらうため『施策レビュー』の機会を 設けることになりました。

これは、町の新しい総合計画『新絆プラン』にあるまちづくりの基 本姿勢、“総働のまちづくり”をもとにした取組みです。前総合計画では、町民起点の理念のもと町民がまちづくりに参画し、ともにまちづくりに取り組む“町民が実感できる町づくり”をまちづくり の基本姿勢としていました。しかし、これからはそれだけでなく、町に関わるすべての主体、町外の関係者とも積極的に関わり、総力 を結集して乗り越えていかなければいけません。いかに外に開き、外とつながり、外から見る視点、外にある情報、外にある知恵や力を取り入れていけるかが、町のV字回復の成功には不可欠になっているのです。

施策は戦略ごとに1つずつ選定され、中には焦点を絞ってテーマを 設定する施策もありました。若者移住・定住の推進施策では未婚率の向上をテーマにして、多様な人材の活躍施策ではダイバーシティ をテーマにして、それに加えて活力ある水産業への挑戦施策が選ば れました。

そして、多様な視点から幅広くアイデアを得るために、外部委員には、日頃町とあまり接点のない専門家や実務者にお願いすることと しました。本来ならば、現地を見ていただいたうえでご意見をいただきたいところなのですが、新型コロナウイルスの感染拡大時期で あり、説明はすべてWEBでの開催となりました。 私は、全体をコーディネートさせていただきましたが、この状況で は委員間で合意形成を図ることが困難と見込まれましたので、当日は職員からの説明と委員との質疑応答、委員どうしの意見交換のみ とし、施策レビューの結果は、各委員から書面で行ってもらうこととしました。一つにとりまとめることにより、委員のみなさんから いただいた豊富な意見、アイデアを切り捨ててしまうことになってはもったいないと考えたためです。

■レビューの機会をいかに活かすか

レビュー後の今は、委員からのレビュー結果を次年度以降の取組み や予算にいかにつなげていけるかの検討を役場内でしている段階と 伺っています。ぜひ有意義に反映されることを期待しています。

私も、いくつかの自治体で行政評価の外部委員やプロセスデザイン、厚生労働省の事業レビューでは外部有識者として参加させていただく機会がありますが、行政職員にとっては、どうしても委員の質問に対して答弁することが目的となってしまうところがあるようです。もちろん過年度の執行状況について説明責任を果たすことは大切です。しかし、時代はどんどん進んでいます。過去よりも大切なことは、目標を達成することにあります。エリア独占している自治体においては、“戦略”と言っても戦う相手は競合他都市ではなく、自自治体の今後の消滅危機です。

今回のレビューの結果は、町にとってたとえすぐに取り入れられな いことであっても、今後発生するだろうその他多くの課題に対して解決策を見出すうえで役立つことがたくさんあるでしょう。経験豊富な委員の方々のそれぞれの見方から、アイデアに至った背 景の考え方を理解することができれば、レビューの結果以上に学びがあるはずです。また、このようなレビューの場を通じ、日頃接点 のない委員の方々とつながり、知り合うことができれば、今後より効果的な方策を見出していくためのチャンスをつかむネットワーク が広がります。職員には、自己革新できる策を見出していくことに将来の町民に対する重要な責任があるのだと思えます。

 


Withコロナ期にある行政経営においては、自治体ごとの課題、危機に対応し、アフターコロナの新時代を見通してさらに「戦略」に磨きをかける戦略マネジメントが求められています。今回ご紹介した南伊勢町の「施策レビュー」のように行政評価のやり方を変えて積極的に活用することは、外部に開かれた体制を構築し、外部の革新的な意見・アイデアを取り入れて、従来の取組みから脱却した革新に果敢にチャレンジする一つの方策となるものでしょう。

行政経営デザイナー/プロセスデザイナー 元吉 由紀子

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