Column コラム
行政経営デザインメールニュース 2023年11月
育成してもらえる人になろう、成長し合える職場をつくろう!
2016年に全国の自治体に人事評価制度が導入され、業績評価と能力評価がされるようになりました。
さて、これに関して「あなたの役所の職員は育っていますか?」と質問されたら、あなたならどう答えるでしょうか。
「はい、どんどん育っています!」もしくは「職員の能力は着実に向上しています」と答えられるでしょうか。
多くの自治体でよく聞かれるのが「上司が人材育成に関心がないのです」とか、「仕事は増える一方で、育成にかけている時間がありません」といった理由です。それでも時代はどんどん前に進み、新たな課題への対応が積み重なってきます。地域の課題は高度化、複雑化しており、ますます難しくなっています。
職員の能力向上が不足した状態で、さらにさばききれない仕事が溜まっていくと、課題が先送りされるうえ、無理をして急ぐとミスが増えたり、メンタルに支障を来たしてしまう職員が増えたりする、二次被害も発生しかねません。
そうならないためには、管理職を含めたすべての職員に能力向上が不可欠です。一人ひとりが能力向上について、職員課などが設定した一斉研修の機会を受動的に待つのではなく、日々職場の中で仕事を通じてこまめに成長する機会を能動的に増やしていくことが大切になります。
すなわち、一人ひとりが「育成される機会を待つ人」から「育成してもらえたり、成長し合える機会を増やす人」になることが、職員力と組織力を底上げしていくことにつながります。そのポイントとして、以下の3ステップが考えられます。
ステップ1:自ら能力の発揮状態をとらえて、盲点となっている能力を見つけ出す
人事評価制度の運営上は、能力査定は対象期間の最後のタイミングで実施されます。しかし、このタイミングでは、自分の能力を少しでもよく認めてもらいたいと思うため、できていないことはできるだけ伏せておこうとしがちです。
人は、好きなことや得意なことには自ずと目が向きますから、自然に発揮する機会が増えていきます。一方あまり好みではないことや苦手なことは、ついトライしてみる機会を避けてしまいがちになることから、本来高めなければいけない能力が盲点となってしまいます。
そこで、これから必要になる能力を把握するために、年度半ばのタイミングでは、各自が自分の職位相当の能力評価指標ごとに発揮状態を事実・実態からとらえておくようにします。その中で思い浮かぶ事象が少ない項目をチェックして、自分なりの向上目標や課題を設定するなどして取り組む機会を意識して増やすことが大切です。
さらに、面談の機会を活用して上司からフィードバックやアドバイスをもらっておくと実現に向けて協力を得やすくなるでしょう。
ステップ2:職場ではいざという時に備えて日頃から弱みをさらけ出しておく
自分がまだやったことがないとか苦手となっている能力を向上する取組は、いきなり任されると、自分一人ではやりきれなかったり、時間がかかったりすることがあるでしょう。そこで、日頃から自分の弱みをさらけ出しておくことが、いざというときに周りの人が手助けをしてくれたり、自分では気づかないミスに気づいてアラームを出してくれる「転ばぬ先の杖」となります。
職場では、日頃からそれぞれが担当以外のことでも気軽に声を掛け合えるような雰囲気をつくっておくことが大切です。これにより、伸ばしたい能力をすでに身に着けている人や強みとしている人を見つけることができ、その能力をどこで身に着けたかの経験や、どのように発揮しているのかといったノウハウを聞くことができます。そうして目を肥やしておけば、いざその機会が来たときに真似てやってみることが しやすくなるでしょう。
また、そういう仕事や研修の機会があれば、周りの職員が気づいて知らせてくれる可能性も出てきます。
ステップ3:重要な業績を達成するプロセスに能力向上プロセスを組み入れていく
役所では、業績評価と能力評価が、仕組として別々に運営されていますが、本当に伸ばしたい能力があれば、重要な業績目標の達成プロセスの中に組み入れていくようにすることが肝要です。必要は発明の母というように、 どうしても実現しなければいけないことであれば、そのための努力をせざるを得なくなります。また、困ったときに組織としても重要性が認知されていれば、周りの協力も得やすくなります。
結果についても、達成したかどうかきちんと成果を確認して評価を受けることができるようになります。自分の能力も上がり、業績も達成することができれば、個人も組織もハッピーで一石二鳥です。
業績目標の達成プロセスに能力向上のプロセスを接点づけることは、人材育成を効率的かつ効果的に実現していく、とても重要なポイントです。しかし、これを人事評価制度の運営マニュアルに記して運用している自治体はほとんど見たことがありません。であれば、部下の側から、あらかじめ自己の能力向上目標を開示して、上司の協力を得られるようにしてみてはいかがでしょうか。
職員の能力向上は、個人のためだけでなく、よりよい仕事をより早く、より確実に遂行し、よりよい行政サービスを実現していく、最小のコストで最大の効果を図る行政組織にとって 欠かせない重要な仕事です。
それでも、今の行政組織においては、それがままならない現実があるようです。だとすれば、上司が部下を育成せざるを得なくなり、 周りの誰からも育成してもらえる機会をつくっていけるようにして、ともに成長し合える主体的な職員と職場が増えていくことがもう一つの解になると思います。
今自治体には、DX人材をはじめ地域おこし協力隊や移住者、関係人口が増えてきています。職員にこれまでにない能力が必要になっている一方で、多様な能力を持つ人材から育成してもらえる機会は増えています。 ぜひピンチをチャンスとしてうまく能力向上につなげてみて下さい。
行政経営デザイナー/プロセスデザイナー 元吉 由紀子