Column コラム
公共組織支援メールニュース 2012年04月
人と組織を生かす役所づくりに向けた課題
3月から4月にかけて、役所から人事異動のお知らせがたくさん届きます。これは役所文化を象徴する一つと言えるでしょう。この異動にあたり「どんな理由で替わったのですか」と尋ねると、上司から新しい部署への異動理由を聞いて配属されている人がほとんどいないことに驚かされます。また、役所では2年から4年に一度の異動をしているために、数年たつと部署の人すべてが入れ替わってしまうといったこともよくあります。
民間企業でもこの時期の異動は多くありますが、経営環境の変化が激しい昨今では、定期異動だけでは変化に対応しきれず、必要なときに必要な人を動かして臨機応変に組織づくりをしている企業が増えています。
行政組織と民間企業の間に、このような人と組織の取り扱いに違いが見られるのはなぜでしょうか。
理由の一つとして、役所では、人は職種や職階が同じであれば同等の資質・能力を持っているとみなしている前提があり、組織に人が「定数」として配置されるということがあります。それは、組織を「複数の人が集まるところ」としてとらえ、定数の総和に相当する「業務内容」を職務分掌規程によって配分していることとつながっています。その結果、所属長は、与えられた仕事を部下がきちんとこなしているか、業務の「進捗を管理」する役割を担うことになります。これらの背景には、役所の仕事は予算が確定した時点でほぼ見定められているという特性をもっていることがあるでしょう。
一方、民間企業では、同じ職種・職階であったとしても、人は一人ひとり異なる個性や強みを持っていると見ており、組織を多様な人材が集まる「チーム」としてとらえ、組織づくりをする傾向があります。このことは、人と人が効果的に関わり合えば、組織には人数以上の仕事ができる可能性があると考え、めざす「成果目標」を設定していることとつながっています。その結果、所属長は、部下に対してより少ない仕事の量でより高い成果を生み出す、組織の生産性を高める「マネジメント」の役割を担っています。これらは不確定な市場環境の中で、常に他社より優位に立つことが求められているという特性をもっているためだと考えられます。
昨今では、自治体ごとに“人材育成基本方針”を策定するところが増えてきました。さらに、“人事評価制度”を導入するところも出てきています。しかし、人と組織をどのようにとらえ、「人材育成は、何のためにするのか」といった目的をどこにおいているのかに関しては、自治体によってかなり違いがあるものです。
同じ方針や制度の名称がついていても、従来と変わらない役所独自の考え方のもとで、人を「定数」として、組織を「一定の業務を遂行するところ」としてとらえるのか。それとも地方分権時代に対応して役所のあり方から見直し、新しい考え方をもって人の個性や強みを伸ばし、組織の可能性を引き出して、地域の独自性の発揮につなげ、より高い成果を追及するところととらえるのか。方向性は大きく異なります。
また、どの自治体でも行政改革が進められるようになりました。同じような目的を持った方針や制度などの仕組みを、全国横並びで形づくることは可能です。しかし、その仕組みを活用する実践が、当初の目的に応じたものになっているとは限りません。先に見たような「人事異動」の運用がこれまでどおりどの自治体でも同じように行なわれているとしたら、まだまだ新しい目的の方向づけや、目的に応じた仕組みの設定、仕組みを活用する実践には至っていないものと推測されます。
今後の役所における人と組織に関する取組みにおいては、これらの目的と、目的と仕組み、仕組みと実態との間のかい離を今一度見直し、めざす姿に向けた補正・補完・補強をして、個々の仕組みがうまくつながり、実質的に機能できるよう経営システムとして整備していく必要性が高まっています。この経営システムの質をいかに高められるかが、これからの新しい自治体格差になってくるのではないでしょうか。
プロセスデザイナー 元吉由紀子