Column コラム
公共組織支援メールニュース 2012年12月
【実践(職場)に生きる研修を実現するために】 管理職研修の場づくり (その2)
前回は、マネジメント力を強化する管理職研修について、企画する目的と所管部署の関係についてお届けしました。今回は、この管理職研修を運営していく前提として、“管理職を育成する”ことが庁内でどのようにとらえられているのか、また、誰が育成に責任を持つのか、について考えてみたいと思います。
■管理職の育成は、不必要なのか不可能なのか
「管理職研修をやっていますか」と問いかければ、「やっています」と答える自治体は多くあるでしょう。しかし、その大半は、階層別研修の一環として、新しく昇進した人を対象に、階層固有の役割や決裁規定などを知らせる内容となっています。
他には、行政改革に伴って新しく導入された制度やシステムを庁内に展開していくために、理解・浸透を図る講演会や説明会を開催する場合があります。また、災害や広域連携など外部環境の変化に対して、庁内調整や官民協働を求めることもあるでしょう。組織を背負っている責任者として果たさなければいけないことは、増えることはあってもなかなか減らないのが現実です。
それでも、これらの管理職研修は、ほとんどが一方通行に伝達だけして終わっているようです。それは、管理職であれば、“すぐに習得して、実践できる”から“育成は不要”ととらえているためでしょうか。それとも、期待と現実との間にどんなギャップがあるのかよくわからなかったり、ギャップがあることは知りながらも、そのギャップを埋めるための方策を見出しきれていないことから、“育成は不可能”とあきらめているのでしょうか。
例えば、私がいろんな自治体を訪れたときに、首長や職員から「管理職に期待している」「部課長の育成が必要だ」といった声を聞くことはほぼ皆無です。むしろ、「管理職を育成するなんて今更ムリだよ」「管理職を変えることなど到底できない。あきらめている」という声が聞こえてきます。これらは、明らかに後者の認識によるものです。
管理職は、すでに職員としてそれなりの経験を積み、実力を備えていますので、ある面では“成長済み”の人材かもしれません。しかし、今まさに日々変化している時代環境の中で、求められる能力もまた変わってきており、多岐にわたっています。これまでとは異なる新たなマネジメントの力をつける“管理職を育成する”必要があるのではないでしょうか。変化の時代に対応する管理職の育成という視点なくして研修がただ知識提供型で企画されていくのだとしたら、それは、「管理職が成長することを通じて、組織力を高めていく」可能性を見失ってしまうことにつながるのではないかと危惧されます。
■管理職を育成する責任は誰が持つのか
求められる役割と現実とのギャップを埋めるための育成は、研修だけでできるものではありません。そこで、Off-JTの研修を実施するときには、通常職場の所属長が育成責任を持つ前提で実施されます。管理職の場合にも、人事制度上は上位の管理者が存在しますので、表向きには育成責任を担っていると言えます。けれど、こと管理職の場合には、その育成責任が充分には果たしにくいという状況があるのです。
例えば、課長に対して部長は、部下である課長グループを束ねるうえでは、個々の課長の能力を評価し、指導・育成することが可能です。しかし、課長が課内をマネジメントしていくときに発揮している能力については、外にいる部長からは見えにくいものです。課長が困っていることの相談に乗り、能力向上に役立つだろうポイントを示唆するなどの支援をすることはできたとしても、課の中に入ってマネジメントに直接関わって指導・育成していくことは困難
でしょう。
そこで、管理職のマネジメント能力の向上においては、管理職自身が “自らを育成する”責任もつことが必要になってくるわけです。管理職研修を実施する際には、一般職員を対象とした研修とは異なるこの特徴をよく理解したうえで、研修を受ける当事者である管理職が自らを育成する責任を果たせるよう環境をいかにつくっていけるのかが、運営上の重要なポイントになると考えられます。
この点については、またの機会に続きをお届けしたいと思います。
プロセスデザイナー/行政経営デザイナー 元吉 由紀子