Column コラム
行政経営デザインメールニュース 2016年02月
人づくりの現場から学んだこと(1) ~京都府立林業大学校運営からの気づき~
林業の専門技術を教える京都府立林業大学校(以下「林大」)は設立(平成24年)から4年目を迎えました。2年間の学業を修めた卒業生がすでに各地の林業の現場で活躍しています。京都府がこの林大を立ち上げるに当たり、学校管理者として私が副校長職に配属されました。この林大の運営はそれまでの行政事務と異なる経験の連続でした。概要を紹介いたします。
Ⅰ 組織をひとつにまとめる合い言葉
我が国は国土面積の3分の2を森林が占めています。建築用材を提供するだけでなく、美しい緑環境を形作り、きれいな水と空気の供給、温暖化防止の決め手となるCO2貯留機能を持っているのが森林です。 この大切な森林を維持する林業の担い手が近年極端に減少してきたことに危機感を持った京都府が技術者養成の「林業大学校」を平成24年度に設立しました。当時全国で6校目の林業を教える公立大学校でした。
学校を開き運営する現場を担当して、補助金や指導監督などの行政事務では感じることがなかった醍醐味を味わいました。ただし、運営が軌道に乗ってきた今だからそのように感慨深く振り返ることができますが、開校して1年間はすべてが初めての出来事です。職員全員が総力で取り組む日々でした。
京都府庁の定期人事異動は4月1日です。従ってこの日に林大配属辞令。一週間後に入学式。翌日から授業開始です。職員が初顔あわせした後、さて執務室の机の配置をどうしましょうと話し合いを始めた組織が大学校を本格運営するまでの助走時間は一週間しかありません。 何を教えるかは府庁でしっかり議論して決められていました。しかし、どのように教えるかは現場に任されました。さらに、親元を離れて暮らす学生の生活全般の相談に乗るという、府庁でのデスクワークとは異次元の業務まで待ち受けていました。 個々の問題をその都度議論している暇はありません。配属された職員12名は府庁の林業技師だけでなく事務系の職員に加えて府立高校から再就職した方もいます。こうした職員一人ひとりが自己判断で対処できる体制にする必要がありました。そのために判断するときの軸となるものを全員が共有して乗り切ろうと考えました。
学校の設立目的は林大設置条例に記されています。練りに練った条文は、想定される全ての行政ニーズに応える行政文章です。ただ残念なことは、若者の心にクサビを打ち込むパワーがありません。
これは使えない!と職員のうちコアとなる4名(教授)に私が声をかけてミーティングを開き、現場の自分たちが納得できる組織目的の言葉を探求しました。力強いフレーズを見つけるまで3日間のべ15時間ひざを交えて話し合いました。無限の言葉の海から「志・夢・行動力を持つ人」にたどり着きました。「行動力」は「熱意と卓越した技能」です。学生一人ひとりが将来の自分の姿を描き、そこへ到達するために必要な知識と技能を身につけるサポートが我々の仕事だと合点しました。
さらに林大でもう一つ大切にしている言葉があります。林業を志す人の基本姿勢です。「自然を尊敬する人であれ」と校長が提示されました。自然の摂理を守ることの重要性です。
この二つの合い言葉を、職員会議や朝礼で繰り返し語りかけました。入学式直後のガイダンスで新入生へ最初に届けるものこの合言葉です。教職員がこの合言葉を通じて学校経営において最も大切にする価値観を共有し、それを態度で示す姿勢を貫くことが、学生たちを育てていくと信じています。
林大職員は林業の指導力がある者を選抜して配属されました。仮に合い言葉がなくてもそれぞれ実力を発揮してくれたでしょう。でも合い言葉を掲げて全員の気持ちが一つにまとまることによって、自分の目指す方向に間違いはないという安心感が生まれ、みんなが腰を据えて学生に向き合うことができた点は大きいと思います。
林大は職業人を育成する学校です。学生には「志・夢・行動力」を持って全国の森林で活躍してほしいと願っています。
▼京都府立林業大学校のご案内
http://www.pref.kyoto.jp/kyorindai/
京都府立林業大学校 木村 祐一(前副校長)