Column コラム
行政経営デザインメールニュース 2019年05月
「総合戦略」をどう見直しますか
2040年に日本の約半数の自治体が消滅する可能性があると日本創成会議人口問題検討分科会から報告されたのが2014年のことでした。その後国ではひと・まち・しごと地方創生法が施行され、各自治体では 2015年度に「地方人口ビジョン」と「ひと・まち・しごと創生総合戦略」 を策定しました。
あれから早いもので5年が経過しました。各地では人口減対策に向けて 地方創生の取組みが進められ、今年度は総合戦略を見直す時期となって います。しかし、総合戦略を見直すことは、そう簡単にできるものでは ありません。理由としては、以下のような問題があります。
●「総合戦略」と「総合計画」が別の計画として策定されている
総合戦略を策定するときに、国からは、自治体がこれまで策定してきた 総合計画等は、各地方の総合的な振興・発展などを目的としたものであり、総合戦略と目的や、含まれる政策の範囲が必ずしも同じではないことから、総合計画とは別に策定することが求められました。
総合戦略を策定したときの国の手引きによると、今後総合計画等を 見直すときには、見直し後の総合計画等において人口減少克服・ 地方創生という目的が明確である場合には、総合計画と総合戦略を 一つのものとして策定することは可能であるとの付言をしていました。 しかし、この5年間に両者を統合する取り扱いをしていない自治体 においては、今後も並存する状態を続けていくことになってしまいます。
●基本構想の将来像と地方人口ビジョンの2種類が存在している
総合戦略の策定にあたっては、その前提として「地方人口ビジョン」を 策定しています。そして、人口ビジョンには、2040年を見通した 中長期の人口推計を行い、その推計に対して自治体として人口展望を 定めることが求められていました。
一方、総合計画では、地方自治法の策定義務付けはなくなったものの、依然多くの自治体が基本構想の中に10年ほどの単位でまちの「将来像」を 設定しています。ここでの将来像は、まちの特色を示した定性的なものが ほとんどです。それゆえ、30年の長期を見通して策定した人口ビジョンと将来像がしっくりマッチしているとは限りません。
この5年間に総合計画を基本構想から創り直すタイミングにあった 自治体では、両者をうまく整合させている可能性がありますが、まだの ところにおいては依然この融合を図りきらないまま総合戦略の見直し 時期を迎えてしまうことになりそうです。
●戦略を見直すには、客観的な分析から必要となる
総合戦略の策定にあたっては、国から資金面でも人材面でも後押し策が あり、また、戦略策定を外部の人材やコンサルタントに委託する自治体も 多くありました。しかし、今回の見直しにあたっても同様の取扱いができるとは限りません。もし内製するならば、先に外部に頼っていたのと 同等の力を職員が身に付けている前提が必要となります。
通常の総合計画の策定時には、すべての政策や施策が盛り込まれている ため、各部署から今後実施予定の施策・事業をボトムアップで収集し、 企画部門が総括するやり方を多く取っています。これに対して戦略策定に あたっては、ビジョン達成に向けて優先する施策・事業を選定し、外部 環境や内部環境に関する客観的なデータを分析・検証したうえで、施策・ 事業を取捨選択しいく、トップダウンで方向付けていくやり方が必要と なります。特に総合戦略では、施策ごとに重要業績評価指標(KPI)も 設定していますので、今回においてもそこまでの意思決定力が求められて います。
戦略策定時には、PDCAサイクルを確立して実施することが求められて いましたから、ここではまさにその実践の有無が試されます。新しい戦略 策定に向けて施策をいかに改善していけるのかが問われることになるのです。特に消滅可能性自治体と予測された自治体にとっては、自分達でしっかりと戦略を策定する力をつけることは、それをやり遂げる力につながります。
この機会をとらえてぜひ総合計画と総合戦略の整合性を持たせ、総合的な 計画の中で何を優先するのか、施策と指標を明示した戦略を導き出し、さらに戦略外となる施策についても取扱いを方向づけて効率的効果的な 行政経営を進めていけるよう、総合計画と総合戦略を統合した新しい戦略 計画を策定できるようになることが期待されているのだと思います。
行政経営デザイナー/プロセスデザイナー 元吉 由紀子