Column コラム
行政経営デザインメールニュース 2026年08月
今、自治体に必要なもの ~「自治体NEXT」に参加してあらためて考える~
NPO法人自治体改善マネジメント研究会が昨年度から開催している「自治体NEXT」に登壇する機会をいただき、計3回にわたり話題提供をさせていただいた。3月が「自治体経営改革~PDCAサイクルを機能させる 取り組み~」、5月が「自治体の人材確保最前線と未来への挑戦」、そして 7月が「地方自治体における官民連携の現状と課題」である。私が副市長として 悩みながら取り組んでいる内容を紹介し、参加者の皆さんと意見交換を行った。これら3回のテーマは一見異なる内容に見えるが、実は自治体経営としての 「共通項」があると考えている。
▼「自治体NEXT」に関する情報はこちら
https://jichitai-kaizen.net/topics2/topics2-3
自治体を取り巻く6つの環境変化
あらためて、今日の自治体を取り巻く環境の変化をまとめると、 主に次の6点だといわれている。
(1)人口動態の変化(総人口・生産年齢人口の減少、超高齢社会の到来)
(2)財政・インフラ関係の厳しさ(義務的経費の高止まりによる財政の硬直化、 公共施設・インフラの老朽化)
(3)デジタル技術の急速な進展(情報システムの標準化とクラウド化、 生成AIの業務活用、情報セキュリティリスクの高まり)
(4)自然環境の変化とリスクの増大(気象災害の激甚化・頻発化)
(5)住民ニーズの多様化と地域コミュニティの変化(地域コミュニティの希薄化)
(6)自治体組織と働き方の変化(人材確保の困難化、職員定数の適正化、 働き方改革と職場環境の改善)
どれも悩ましい課題だが、すべての自治体が直面しており、逃げずに正面から向き合わなければならない。どの課題も、私たちが 昭和から平成、令和と培ってきた経験値だけで乗り切れるものではなく、逆に過去の経験則が邪魔になるケースすらあるかもしれない。ましてや、じっとしていても誰も助けてはくれない。
では、どうすればいいのか。特効薬も処方箋もない中で、トライ&エラーを 繰り返しながら前に進むしかない。そして、その推進力となるキーファクターが、 3つのテーマの共通項でもある「現場力」と「地域愛」である。
【経営改革】 現場でのPDCAと全体最適を図る舵取り
まず、「現場力」の向上は極めて重要な要素だ。3月に話題提供した経営改革、すなわちPDCAサイクルを機能させる取り組みは、決して経営層や幹部層、 ミドルマネージャーだけのものではない。住民と対峙している現場でこそ PDCAサイクルを機能させることが最大の目標である。行政サービスの最前線で踏ん張る職員が自ら事業を振り返り、課題を潰しながら改善していく。それを突き動かすのは「地域をよくしたい」という 思いだ。この思いに基づく循環こそが必要であり、これはAIには代替できない、職員の地域に対する情熱によって成せる部分である。
一方、現場でのトライ&エラーをサポートするのがミドルマネージャーや 幹部層の役割だ。部分最適では先述の6つの課題は解決できない。輻輳(ふくそう)する課題を解決するためには、経営層が行政サービスの PDCAを見守りながら、全体最適を目指す舵取りを行う必要がある。この仕組みを自治体に作り出すことこそが、真の経営改革だと私は考えている。
【人材確保】 AI時代に求められる「多様性」と「地域愛」
次に、現場でトライ&エラーに挑み、現場力を高める人材をどう確保するか。これが5月に話題提供した人材確保のテーマである。単に事務処理能力の高い 優秀な人材を確保すればよいという話ではない。定型業務はAIが受け持つ時代が 目の前まで来ている。
では、AIにできない部分は何か。それこそが「地域をよくしたい」という思いや情熱 (地域愛)である。そうした情熱を持つ人材の確保こそが未来への挑戦だ。さらに、現場力を高めるためには「多様性」が求められる。新卒であれば、大学等での学業だけでなく、ボランティアや接客業、クラブ活動での組織運営など、さまざまな経験を求めたい。キャリア採用であれば、多様な職種での現場経験や、 苦しみながら課題を解決した経験を重視したい。
多様な経験と地域への情熱を併せ持つ人材を確保できれば、現場力は間違いなく向上する。行政サービスの現場で、多様な人材が地域愛を持って果敢にトライ&エラーを繰り返す自治体だけが、先の6つの課題を克服する道を 切り拓くことができるはずだ。
【官民連携】 価値を最大化し、住民の思いを反映するモニタリング
そして、「現場力」と「地域愛」という共通項は、7月のテーマである官民連携を進めるための基本スタンスにもつながる。
官民連携は単なるコスト削減の手法ではない。現場力を向上させるために、行政だけではできない部分や、知識・技術が不足する部分に民間活力を生かし、行政サービスの価値を最大化する取り組みである。そのためには、 官民が相互尊重の姿勢で信頼関係を築き、その成果としてVFM(バリュー・フォー・マネー)を高めなければならない。
ここで重要になるのが、マーケットで利益追求を目指す民間事業者には欠けがちな「地域をよくしたい」という情熱をどうカバーするかだ。その手法が 「モニタリング」である。モニタリングとは、単に事業が仕様書通りにできているかを監視することではない。
地域への思い、地域をよくしたいという住民の願いを事業に反映させるための仕組みである。そこには当然「地域愛」が必要であり、それを担うのは、地域をよくしたいというマインドを持ち、トライ&エラーを繰り返す ポジティブな自治体職員である。そうした職員が切磋琢磨する自治体は、必ず力強い存在になるだろう。
これら山積する課題を克服するまでには、まだまだ時間がかかる。しかし、このようなチャレンジを通じて組織風土を変える経営改革に取り組み、自治体力の向上に向けてさらなる努力を続けていきたい。
川西市 副市長 松木茂弘



