Experience 体験記
「どうすれば役所は変われるのか」 農林水産省セミナー体験記
組織名 | 農林水産省大臣官房経理課 |
応募者 | 福井 逸人 |
※敬称略
セミナーの申込み以前に、既に組織風土改革の取組みに着手していましたか?
◆していた
・当課では、政府全体の方針により経理関係の人員が削減される中で、適正な経理を行うためには、業務そのものの見直しを行う必要があるとの課長の発案により、経理業務の合理化・効率化についての議論を昨年春から始めました。
・ 具体的な議論を進める中で、民間企業への派遣研修の経験を持つ課員から、経理業務についても民間企業と同様「顧客意識」を持って仕事をすることが重要ではないかとの提案があり、それまで漠然としていた、「我々の顧客は誰か」について議論し、直接の顧客を省内の職員と設定しました。その上で、民間企業の手法に見習って「顧客満足度調査」を省内の職員向けに実施したところ、経理課への苦情・不満がとても大きいことがわかりました。
・このため、個別の業務ごとにルール改善を進める一方で、「顧客に、より喜ばれるにはどうすればよいか」という観点から、業務全般の改革について全課員参加型の課内ミーティング(「経理課の将来について課長と語る会」)を始めています。
・「語る会」は、勤務時間中に、1回あたり10数名が参加して開催しています。当初、担当分野ごと(縦割り)に開催したところ参加者の発言が少なかったのですが、参加者のアンケートから、上司・部下を目の前にして自由な発言をすることが難しいということがわかり、途中からは役職・年齢層ごと(横割り)で開催するようにしています。
・これまでのべ14回の「語る会」を通じて、課の現状について、様々な疑問・不満が出され共有することができたものの、これをどう改革につなげていけばよいか悩んでいたところです。
セミナーを申込み、開催するにあたって、どんな準備をされましたか?(著者との事前打ち合せなどを含め、準備にあたり考え、動き、気づかれたことなど)
・元吉さんには、事前にオフィスを訪ねて、セミナーの開催に向けて相談をし、セミナー開催の周知方法から対話会の事前準備、当日の座席配置に至るまで、丁寧なご助言をいただきました。
・まず、「数時間・1回きりのセミナーであっても、講演する側だけでなく聴く側も、大きな費用を払って参加している(たとえ無料のセミナーであっても多くの時間を割いて準備するし、50人が参加すればそれだけの時間給が費やされる)。だから、有意義なものとなるよう、細心の心遣い・準備が必要だ」というお話をいただきました。
その上で、準備作業の一つひとつについて、意義・狙いも含め相談にのっていただきました。(大事なノウハウを書いてしまって良いのかどうかわかりませんが)具体例を一つ挙げると、セミナー開催の周知について、問題意識を共有できている課内限りにすべきかどうか悩んで相談したところ、「課外にも案内してはどうか。参加してくれる人がいれば、そこから経理課の顧客である省内職員とのネットワークができるかもしれない。また仮に参加者がいなくても開催案内を通じて経理課の取組を知ってもらうきっかけになる」というお話があり、開催案内の出し方一つにも過去の経験を踏まえて考え抜かれたノウハウがあるということを知りました。
・こうした細かい配慮から、セミナー後の取組の進め方というような大きな話に至るまで、元吉さんのアドバイスは、一人ひとりの職員の視点に立って最適な取組をデザインしようとする徹底した姿勢に由来しているように感じました。自分達がついつい改革推進担当の視点だけで独りよがりになっていたことに気づかされました。他の組織での実際の経験を踏まえ、職員の視点で最適な取組方法をアドバイスしていただけるプロセスデザイナーの存在は、大変貴重だと思います。
・事前の打ち合わせは、当初は担当だけで行いましたが、課内でこの取組を進めていくに当たっては、課長の存在が大きく影響を及ぼすことから、課長とも別途行わせていただきました。
そこでは、元吉さんに、課長が業務改革の取組を始めようとしたきっかけ・問題意識を理解していただきました。また当日の課長の振る舞い方について、相談をすることができました。当初、参加者に自由に議論してもらいたいとの考えから対話会には課長は参加しない方針でしたが、「課長が肩書きを外して参加し課員と悩みを共有できれば、今後の取組に大いに役立つはず」とのご意見をいただき、参加することにしました。またそのためには、課長が対話会で悩み・弱みを正直に課員に吐露することが重要とのアドバイスをいただきました。
・セミナーへの参加者は、事前に著書「どうすれば役所は変われるのか」を拝読するとともに、アドバイスも踏まえて、特に対話会参加希望者(10数名)には別途声をかけ集まって意見交換をしました。この段階では「県庁と国とでは違うのでは?」「経理業務のような内向きの仕事だと事情が違うのでは?」という心配も強かったようです。ここで出てきた問題意識や質問事項は、講演の視点として取り入れてもらえるよう、事前に元吉さんにメールでお知らせしました。
出張セミナーは、どんな目的、方法、状況で開催されましたか?(対象者、人数、時間帯、対話会の有無、進め方、主な内容、参加者の思い、様子など)
・「気楽にまじめな話し合いをする組織風土を作ることで自ら課題を解決する力をつけることができる」という実践事例などを課員一緒にお聞かせいただくことで、現状を打破し業務改善のきっかけにしたいと考え、セミナーの開催をお願いしました。
・課内及び省内で、趣旨を説明し希望者を募集したところ、課員の半数以上(約60名)が参加しました。
・ご講演は、わかりやすく楽しくて、参加者の心に残る内容でした。特に、「変わるのは何のため?」「改革は、課、省、国民のためであり、自分のためでもある」というお話が課員にとって驚きだったようです。また、対話会には、事前希望者を中心に22名が参加しました。そこでは、課員の発言一つひとつに即座にアドバイスをいただくうち、すっかり話が盛り上がって、日ごろ聴けないお互いの気持ちを課員同士が聞き合うことができました。あっと言う間の2時間半(講演1時間と対話会1時間半)でした。
セミナー参加者の感想や反応は、いかがでしたか?
課員の感想を一部ですが紹介します。
・自分の担当部署を守るためでなく、担当部署を超えて本当に経理課を良くしようと考えていけば、経理課内の効率的改革はできるのではないか、と少し光が見えてきました。
・皆さん普段自分なりに思っているものがあるんだな~と感じました。対話会がこんなに盛り上がるとは思っていませんでした。ちょっとびっくりです。
・経理課の現状に疑問を持っている職員が多いことは、自分の悩みを理解してくれる仲間がいるように感じられて、すこし安心しました。
・相手が何を思っているかがよくわかりました。
・変わらないといけない要素がたくさんあるので、ああやって話し合う機会をたくさん作って行けたらよいのではないかと思います。
セミナー後、何か変化はありましたか?(いつもと違う様子、ちょっとした会話、新たな気づきや動き、取組みなど)
・セミナー後あまり時間が経っておらず劇的な変化はまだありませんが、課員の間で、「課内のコミュニケーションのあり方」について問題意識を共有できた結果、「話し合う」ことへの抵抗が少し減ったように思います。これまで課のリーダー層の会議が、担当セグメントの報告のみで終わっていたところ、セグメントを超えて課全体の課題について話をしようと新しい形のミーティングを行い、課員へのメッセージをまとめました。
・このメッセージの中で、思い切って、「自由に議論するチーム」を作ろうと、課員に参加を呼びかけました! が、関心はあるものの業務多忙でなかなか参加希望が得られていません・・・。
・当面は、「経理課の将来について課長と語る会」で、「課員みんなが話し合う風土を作るにはどうすればいいか。どういう形であれば課員が継続して話し合いに参加しやすいか。」について、さらに話し合ってみようと考えています。
本を読んだ時と一連の体験を経た後では、組織風土改革やプロセスデザイン、改革を支援するプロセスデザイナーの存在などについて、とらえ方に違いはありますか。
・著書を読んだときは、組織風土改革ってすごいなあ、と遠い世界のことのように思えていましたが、講演会で三重県庁での取組をより具体的にお話いただいたり、対話会で課員の問題意識と組織風土改革とを関連づけていただいたりする中で、うちの職場でも同じような取組ができるかもと思えるようになりました。
自分たちだけで議論するよりも、外部のプロセスデザイナーに導いていただくことで、自分たちでも気づいていない職員・職場のパワー・可能性を引き出すことができると感じました。
・一方で、組織風土改革は立場の異なる様々な人間が関係するものであり、実際に取り組もうとするほど、多様な視点・立場に配慮して最適なプロセスを描くことの重要さを痛感しました。改革推進担当者には改革推進担当者の立場・発想があり、押しつけになったり独走してしまったり、最適なプロセスを描くことはとても難しいことだと感じます。元吉さんのようなプロセスデザイナーの存在はどうしても必要と思いました。
スポンサーから一言(思いや、応援メッセージなど)
・手探りで進めていた組織風土改革でしたが、先般のセミナーでプロセスデザイナーという専門の立場から客観的にアドバイスを頂戴し、今後の進め方を考える上で、大きな助けとなりました。また、職員の心にあった種に火をつけていただいたようで、改革に対する姿勢も変化がみられます。
・その意味で今回のセミナーは、組織として今後の取組を進める上で、また職員が仕事の進め方を考える上で、とてもいい機会になりました。
・組織の風土改革を効率的に進めていくためには、こうしたアドバイスの仕組みは大変重要だと思いました。
〔平尾経理課長より〕
今後スコラ・コンサルトや著者元吉由紀子に期待することや質問などはありますか。
・セミナー後、組織風土改革の発案者であり最大のスポンサーでもある平尾課長が異動になってしまいました。幸い、新課長がこれまでの経理課内の取組に理解を示し、引き続き重要課題として取り組んでいくことになりました(早速、就任挨拶で課員にその旨表明していただきました)が、今後、自分も含め改革推進部署担当者についても入れ替わりがあり得ます。
他の組織でも同じような悩みを持たれていると思いますが、担当者やスポンサーが代わっても組織風土改革を継続していくための秘訣を、何か一つアドバイスいただけると幸いです。
この出張セミナーを終えての感想などがありましたら、ご自由に記載願います。
・今後、組織風土改革を進めるためには、プロセスを意識することが極めて重要だと改めて感じています。セミナーへの参加を課員共有の財産として、セミナーでいただいたヒントをなぞりながら、自分たちなりにプロセスを描いていきたいと思います。
・喜んでいただけるご報告ができるよう、今回のセミナーを組織風土改革につなげていきたいと思います。ありがとうございました。