Experience 体験記
「どうすれば役所は変われるのか」 広島県廿日市市セミナー体験記
組織名 | 広島県廿日市市 |
応募者 | 川本達志 |
※敬称略
セミナーの申込み以前に、既に組織風土改革の取組みに着手していましたか?
◆していた
2年10ヶ月前、県から廿日市市に来て、私が最初に考えたのは、「市民に感謝され、市民のために働くことを誇りに思える市役所の実現」でした。これは、13年前に「文化振興プラン」を策定したときから、私の胸の中に宿っているものです。
「文化振興プラン」の中の「行政の文化化」にある取組は、今読み返しても、これからの行政、市役所の在り方を示唆しているものと確信しています。しかし、当時、これを実現する方法論は余り議論されていませんでした。目指す方向が示されたに過ぎなかったように思います。
あれから、10年余り、NPMの議論が盛んになり、そのなかに、これを実現する具体的な方法論があるように思えました。そして、「市民に感謝され、市民のために働くことを誇りに思える市役所の実現」のための具体的な動きを起こそうと、「経営品質」への取組を始めました。ビジョンを定め、ビジョンへ近づくための自己評価と改善のサイクルは、「いい市役所」づくりのための方法として最適な取組だと考えたからでした。自らの役割とめざす方向を定める「組織プロフィール」づくりと市役所内のセルフアセッサー(評価員)による評価は、確実に組織内の対話を生み出し、組織の役割を考えるきっかけになっていると思います。
しかし、職員から湧き上がってくるような、「いい市役所」づくりの行動が起きているか、自問する日が続いています。文化振興プランでめざした、市民との関係づくりや前例にとらわれないチャレンジが生まれるような組織風土が、今のような困難な時代には、是非必要だと考えるのですが、そのように感じているのは私だけなのか、とも。
今、市長マニフェストの下で、私たちが取り組もうとしていることは、「文化振興プラン」でめざした二つの大きな方向です。「協働」と「市民のための市役所」。どちらも、職員が自ら考え、行動することでしか達成されないものです。そのように考え、行動する職員の動きが起きるきっかけになればと思ったのが、このたびのセミナーの開催でした。
職員の中には、次々に取組を変えると思われた人もいたと思いますが、そのようなことはありません。ただ、本当に「これに違いない」という確信をもてるようなものはないのです。必要なのは、なんとか「いい市役所」にしたいという思い、意欲なのではないでしょうか。みんな、今の市役所が最善の状態だとは思っていないはずです。「いい市役所」になるためにはどうしたらいいのか、一緒に考え、行動してほしいと思っています。そのためのよりいい方法があれば、試してみればいいのだと考えています。
セミナーを申込み、開催するにあたって、どんな準備をされましたか?(著者との事前打ち合せなどを含め、準備にあたり考え、動き、気づかれたことなど)
本市では、11月に市長選挙があり、マニフェストを掲げた新しい市長が誕生しました。これまで、市長と幹部が思いをあわせる場がなかったと思い、元吉さんの本で、そういう場づくりが改革の一歩だとあるのに意を強くし、12月に一泊二日で幹部オフサイトをやりました。その場は、本音も出て、これからのまちづくりへの思いを合わせることは、ある程度できたのではないかと思っていました。
しかし、セミナーの前に元吉さんと打ち合わせをする中で、「何のために改革をするのですか?」と問われて、即答ができませんでした。財政的に危機的な状況にあることや市町村合併というのは、事実に過ぎない。「こんな価値を生み出すために、私たちはどうしても変わらなければならないんだ」ということが、出てこないことに妙な焦りを覚えていました。幹部オフサイトでも、そのことは共有できていなかったのです。
その中で気づいたのは、「Q1」の書いたような、思い、要するに、何のために組織風土改革をするのか、変わる動機付けを職員の中に根付かせていないことでした。
それは、とりもなおさず、私の思いを職員に伝えていたか、職員の迷いや本当の思いを知っていたかという反省でした。県から市へ来て、行政のことやマネジメントのことを少し分かっているからといって、「改革」と声高に言い、それに職員が戸惑っているのが現状なのかとも思います。
このたびのセミナーを開催するにあたっても、もっと、分かりやすく伝える必要があったのだと思っています。どうも、私自身の悪い癖ですが、身勝手に、誰もが分かるはずだと考えてしまいがちなようです。
「Q3」にもあるように管理職を対象にするということで、元吉さんから事前のアンケートをとったらという提案で、「マニフェスト実現のため改革を進めるにあたって、何が必要ですか。また、何が問題ですか」という、自由記入形式のアンケートをしました。多分、時間もなかったこともあって、ほとんど返答はないだろうと思っていたところ、40近い返答が返ってきました。多くの管理職が改革は必要だと考えているのだと、実感したところですが、一方で、その問題意識は様々でした。これを、大きな改革の方向に向けるのには、また大きなエネルギーが必要とも感じました。
元吉さんの講演の最初に「何のために改革をするのか」と問われた管理職員の多くが、「そこそこ、そこなんだよね~」と心の中で相槌を打ったような気がしました。三重の知事が職員に叩き込んだ「生活者起点」に相当する廿日市市の理念が必要だと思っています。
出張セミナーは、どんな目的、方法、状況で開催されましたか?(対象者、人数、時間帯、対話会の有無、進め方、主な内容、参加者の思い、様子など)
管理職を対象、120人程度、15時から1時間講演、16時から改革担当部の係長以上で体験オフサイト実施、1時間半。
オフサイトは、10人程度、自己紹介と講演の感想、現在の行革について、職員のやる気についてなどをフリートークの形で交換。いずれも、指名参加でした。手上げ方式も考えましたが、「Q2」にあるような説明不足、準備不足から、わが部の職員に参加してもらう結果になったというのが反省です。
目的は、「Q1」で書きましたが、とにかく、「いい市役所」をつくりたいという思いを一緒にして欲しいということです。
セミナー参加者の感想や反応は、いかがでしたか?
私自身は、これまでの2年間の取り組みに、活気というか、盛り上がりが出てこないので、寂しい感じがしていました。改革、カイカクと叫んでいるのは私だけのような…。
そのような中で…体験オフサイトの参加者の感想
「市における「改革」の土壌作りと種まきは、もう一通り終わったのではないかと思っています。今は、そこに水をまいて育てる時期、熱い気持ちをもつキーパーソンを探して実践していく時期に来ているのではないでしょうか。各所にキーパーソンは必ず居ます。成果をあせらず、小さな実践を積み重ねていくことが、大切なのだと思います。」
そうですね。実践が大事。さらに、
「レジュメの『何を変えるのか』が混乱して、疲弊している状態では?」というページ(4ページ)は、いろんな意味で「確かに・・・。」と思いました。」
市役所の現状、職員の気持ち、実際そうなんだろうと改めて感じました。
「セミナーとしては、内容がわかりやすく良かったと思います。ただ、聞いている人が、どれだけ「改革」という言葉を身近に感じてくれたかちょっと不安でもあります。「改革」は、人それぞれ受け止め方もあり、はじめの質問があった「今何を変えようとしていますか。」のモヤッとした部分が共有できるようになれば、大きく動き出せるように思いました。」
やっぱ、なんのための「改革」なのかという大切な部分が共有できていないのか…。
「今回セミナーを開催して一番よかったと思うのは、参加者(管理職)に対する事前アンケートで管理職がどう考えているのか知ることができたことです。完全な匿名にしなかったので、建前的な意見もあると思いますが、わたしはこれまで、管理職が何を考えているのか知る機会がなかったので興味深かったです。外部の人を呼んできて講演や研修をしてもらうよりも、市役所内部にこれから何をすべきで、どうしたいのかを問うほうがいいと思いました。わたしはわたしのオフサイトミーティングを地道に続けていこうと思います。」
職員への「問いかけ」は本音ですることですね。でも、傷つくことが怖いのは管理職になればなるほどそうなんですよ。
「今、改革と言う言葉より、具体的な成功事例を知りたいので、情報を沢山持っている元吉さんに期待します。」
右に同じです
「お疲れ様でした。ありがとうございました。元吉さんをみて、いい問いかけができないとダメだなと思いました。困らせる仕組みも必要で、困らないと考えることもしないし、改善も起きないのですねー。
「考えることをやらせる。」には、いい問いかけが必要ですね。でも困りきらないようなセフティーネットもいるんですねー。大きなPDCAサイクルにこだわっていましたが、本当は小さなPDCAサイクル(一人一人の)が必要なのかもしれませんねー。のみの席で出ていました一人一協働みたいな・・・・ 日ごろ自分が考えていないことを考えさせられた平成20年1月29日でした。いい問いかけができるようになるには、どうすればいいのか。しばらくは、これをテーマに思考してみます。」
セミナー後、何か変化はありましたか?(いつもと違う様子、ちょっとした会話、新たな気づきや動き、取組みなど)
特に変化は見られせんが、上記の感想が得られたことは、次への指針になります。
本を読んだ時と一連の体験を経た後では、組織風土改革やプロセスデザイン、改革を支援するプロセスデザイナーの存在などについて、とらえ方に違いはありますか。
そんなこんなで、盛り上がらない中で、体験オフサイトでは、正直な思いが吐露されました(本音とは言えないまでも)。第三者が問いかける事によって、普段言えない思いが出る、また、これまで聞けなかった、体験や本人のやりたいことなどが出てきました。こういうことを繰り返すことによって、本音が言い合え、職場も変わるかなと思いました。
このような、小さなことからはじめる、全体からではなく、部分(一部のサービス提供部門など)からはじめるのがいいかなと思いました。しかし、元吉さんの言われるように、「何のために変わるのですか」という問いに、はっきり答えられなければ、部分の動きは部分の動きで終わってしまうでしょう。この「いい市役所」の姿が共有できて初めて、「改革」という言葉に「魂」がこもるのではと思います。
スポンサーから一言(思いや、応援メッセージなど)
分権政策部のみなさん、合併以後、「経営品質向上」「集中改革プラン」「定員適正化」「中期財政運営方針」「総合計画」と続けざまの取組、本当にありがとうございます。皆さんの仕事振りには本当に頭が下がります。
もし、「やらされ感」があるということであれば、これまでも書いたように、結果的に思いを共有できないままに、リードしてきた私の責任です。ただ、分かってもらいたいのは、市民にとっても職員にとっても「いい市役所」をつくりたいというのが、廿日市市に来てからこれまでの間の、私の変わらぬ思いです。
職員と腹を割って話がしたい、というのは私だけでなく、幹部誰もが思っていますが、それは、幹部にとっても、自分も変わらなければならないという意味で、とても勇気のいることなのです。そういう意味で、もっと職員同士の上下や横の関係を、本当に信頼できる関係にできたらいいなと思うのです。皆さんの取組の中でも、何とかしなけりゃいけないという思いから、さまざまなトライがされていると思います。しかし、なかなか成果が現れないのも現実だと思います。でも、修正しながらトライし続けましょう。そうすれば、山もきっと動きます。
今、廿日市市は、有史以来の危機にあるのではないでしょうか。人口減少という危機、財政難という危機、組織内の不信感という危機などです。座視していれば、確実に市も市役所組織も蝕まれていきます。今こそ、職員がこの危機に立ち向かうときです。私も、改めて、先頭に立って行きたいと思います。
私は、この廿日市市と市役所を、どこのまちより市民が誇りにできるまち、職員が誇りに思える市役所にしたいと思います。そして、それは、皆さんとなら可能だと思っています。ともに、頑張りましょう。
副市長 川本 達志
今後スコラ・コンサルトや著者元吉由紀子に期待することや質問などはありますか。
引き続きご支援ください。