Column コラム
行政経営デザインメールニュース 2024年05月
自治体で職員の人材育成が進みにくい理由
自治体における人の問題
自治体の管理職と話をしていると、「人が足りない」「能力が不足している」「人材育成が必要だ」など、人に関する悩みや問題がよく出てきます。 理由を尋ねると、「業務が多くてこなしきれない」「できる職員が限られている」「メンタル不調となり休む職員が増えている」などの理由を述べられます。
これらの理由については、管理職だけでなく、係長や一般職員、経営幹部からも 異口同音に述べられることがあるため、問題は部分的なものではなく、役所全体に共通する課題となっているのではないでしょうか。
そこで、「どんな対策を打たれているのですか」と質問すると、「人を増やして欲しいと職員課に要望しているのだけど、どうにも叶わなくてね」と、自分たちにはなす術がないという困り顔をされることがほとんどです。
一方、職員課に様子を尋ねると、「庁内では部署を横断してDXの取組を進めているが、積極的な部署とそうでないところがある」とか、「近年は入庁後早期に退職する職員もいて、職場内の問題は多様化しており、個別に対応する必要があるため、職員課の業務も多忙になっている」 などの苦境が聞かれます。
ただ、これらの話を伺う中では、どの自治体からも“人材育成” についての考え方や課題、具体的な取組についての状況が見えて来ないため、「人材育成はどうでしょうか」と問いかけると、「育成にかける時間的な余裕がなくなっている」「研修に参加する人はすでにできている人で、本当に来てほしい人がなかなか来てくれない」などの問題を述べられます。
これでは当然人材育成が進むはずはなく、結果既存の能力と従来通りのやり方のまま増える業務に追われ、ただガンバルだけでは こなしきれなくなって、体調を崩してしまう人が増えていくといった 悪循環に陥ることが容易に推測されます。
行政経営において盲点となっている“人材育成”の問題
そのような中でも、行政評価では事業目標がほぼ予定通り達成され、今後はほとんどが現状維持もしくは拡大か要改善という評価結果が並んでいます。 行政改革でも職員の定数はしっかり計画的に管理され、さらに人事評価ではほとんどの職員が職位相当のB評価までに収まっているとすれば、どこに問題があると言えるのでしょうか。
行政経営においては、この行政評価と人事評価の間に人材育成の問題が隠れて存在し、注力されにくい盲点になっているようです。
その要因の一つは、人事評価のし方にあると考えられます。自治体で進められている事業は、現在行政評価だけでなく、人事評価における業績評価の対象にもなっています。ただし、行政評価では、成果が担当職員だけでなく多様な主体で担う 総合的な結果であることから、個々の職員の業績評価に際しては、職員が事業においてどんな役割を担い、その役割を果たすためにどんな能力をどのように発揮して実現するのかというプロセスをとらえ、求められる能力の発揮と能力の向上目標を加味して「個人目標」を設定し 評価する必要があります。
それでも多くの自治体では、業績評価と能力評価が分断して行なわれていたり、業績評価が行政評価レベルでのみ行なわれていたりすると、この能力の発揮状態や能力向上の必要性には気づかないままやり過ごされてしまう危険性が出てきます。
また、能力の発揮や向上は、一人でできるものではありません。それゆえ、業績管理においては、定期的に進捗状況を把握する際に、 組織全体でチームワークの状態や人材育成の状況を確認して、適宜改善策を練る職場のマネジメントと表裏一体で進めていくことが重要です。「組織目標」は、本来この業績向上と能力向上の両者をつなぐ 職場マネジメントを機能させていくためにあるものです。
しかしながら、自治体では組織目標があくまで個人目標を設定するときの上位目標として年度当初に上意下達で提示されるだけの取り扱いに留まっており、年度内のチームづくりや人材育成に活用しているケースをほとんど見かけません。この組織目標管理の欠如が、人材育成の問題を顕在化しそびれる もう一つの要因になっていると考えられます。
行政評価と人事評価のギャップ
行政評価は、1997年に三重県で初めて事務事業評価システムが導入されてからすでに27年が経過し、公開しているところも多くあります。自治体によって差はあるものの、その運用方法については、 広く認知され、工夫もされています。
しかし、人事評価は、2016年に国から義務付けられて運用が始まったものの、まだ8年しか経っておらず、個人情報に関わるため庁内でもその運用状況が共有されずにいる状態にあります。そのため、この行政評価と人事評価の間にギャップがあり、そこに能力向上の目標と人材育成の課題が存在していることすらも まだ十分明らかになっていない状況にあるようです。
今企業では、人的資本経営として、人を資源ではなく、資本としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことが、持続可能な企業の経営に重要であるとして経営指標として見える化する動きが始まっています。この流れは、早晩自治体にもやってくることでしょう。そのためにも、今はまだ見えにくい人材育成の問題と課題を、まずは自分たち自治体の中でしっかりと把握し、取り組めるようにしていくことが、今の悪循環を断ち切るためにとても大切な第一歩になると考えられます。
行政経営デザイナー/プロセスデザイナー 元吉 由紀子